■■■ 告白 「おまえが好きだ」 「またまた・・・お戯れを。」 自分の服をすがるように掴むピオニー9世の肩を、ジェイドはそっと掴んだ。 「ふざけてなんていないぞ。酔ってもいない。」 ピオニー9世がジェイドの胸にコツンとおでこをあてる。 そんなピオニーの様子と掴む肩の震えから、ソレが冗談ではないことなどジェイドにだってとっくにわかっていた。それでも―――。 「気の迷いです。お酒もはいって雰囲気に流されただけですよ。さぁ。今日はこれくらいにして寝てください。あなたには大切な国民を守る、大事な仕事が明日もある。」 「なぜおまえにはつ伝わらない。」 引き剥がそうと肩をおしたところで、自分に寄り掛かるピオニー9世はちっとも離れようとしなかった。 「陛下。」 「何回言えば伝わる?十回か?百回か?いくらでも言うぞ。」 「陛下!」 「ジェイド。お前が好きだ。」 真剣なピオニー9世の瞳と、声。 ジェイドは小さくため息をついた。 「――――そんなの、とっくの昔から知っています。」 そして静かに。言うのを一度躊躇い、言葉を飲み込んだ後―――ピオニー9世の自分を見る瞳が、余りにも真剣で、そして泣きそうだったから。 告白する。 「ならなんでいつもなかったことにする。」 少し怒ったようなピオニー9世の声。 自分から引き剥がそうとピオニー9世の肩を押していた手を、するりとピオニー9世の背中にまわして。 ジェイドは力加減に少し戸惑いながら、微かに力をこめてピオニー9世の身体を抱きしめた。 「私は人の愛し方なんて知りません。」 「だからどーした。」 「あなたが―――大切です。誰かを大切だと思うことすら、今までなかった。」 もう一度、言葉に躊躇い息を呑む。 自分の喉がこくりと鳴るのが聞こえて、思わず嘲笑った。 緊張するということは、こういうことなのかと。 これも今まで感じたことのないことだった。 「一度しか言いませんよ。よく聞いてください。」 「言え。」 いつだって強気なピオニー9世の声は、こんなときもやっぱり少し強気で。 僅かに頬を染めたその顔が、自分の言葉を少し期待しているのがわかった。 「あなたが好きです。」 そして抱きしめる腕に、力をこめる――――。 微かに身じろいだその身体は、耳まで微かに赤く染まり。 少しだけ笑うような声が聞こえて、ジェイドは眉を顰めた。 「やっと言ったな。」 「ご存知でしたか。」 「当たり前だ。何年一緒にいると思っている。」 「………陛下。」 「愛し方を知らない?十分だ。それでいい。その言葉を毎日言ってくれればいい。」 「…陛下。」 「なんだ。」 「離れてください。」 「想いが通じ合ったと思ったらコレか!冷たいやつだな。お前は。」 少し怒ったように頬を膨らませるピオニー9世に、ジェイドは今日何度目かわからないため息をついた。 こんな風に我侭なのは自分の前だけだと知っているから、別に何も言うつもりはないが。 少し尖ったその唇に、自分のそれをほんの一瞬だけ重ねて。 「ジェっ…。」 驚いたように一瞬開いた唇に、今度は深く口付ける。 逃げようとした舌を絡めとると、僅かにアルコールの味がして。 歯列をなぞれば、微かな声がピオニー9世の口から零れ落ちた。 「このままくっついていると、コレ以上のこともしたくなっちゃいますよ。」 「上等。こい。」 「そう言うと思ってました。だから嫌だったんです。」 「なんだと!この俺が誘ってるんだぞ。」 「……一度抱いたら、もう手放しませんよ。たとえあなたが嫌がっても。」 「それはこっちのセリフだ。一度手に入れたものを、この俺が手放すと思うか。」 にっと笑って襟元を小指でピオニー9世が引っ張る。 僅かに見えた鎖骨に、ジェイドは苦笑した。 最初に言った『あなたには大切な国民を守る、大事な仕事が明日もある。』という、遠まわしな釘指しも目の前の君主にはなんの役にも立たなかったらしい。 「知りませんよ?」 「望むところだ。」 これからセックスするとは到底思えないほどの、ケンカ腰。 相変わらずだと苦笑すれば、ピオニー9世が何がおかしいと不思議そうな顔をして。 「さて。どこか移動しますか?」 「ここでいい。」 「………玉座なんですが。」 「滅多にできないところだぞ。」 にっと笑ったピオニー9世に、ジェイドは痛む頭に指先を当てた。 あとがき
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