誰か愛する人はいなかったし、作らない主義だった。 友達は沢山いたし、自分から沢山作った。 けれど。 親友はいらなかった。 辛いだけだったから。 死と隣合わせの生活の中で特定の人を作るのは…本当に辛いだけだったから。 自分の死を悲しむ人を作るのは――――。 なのに――――――。
「ヒイロっ!夕食どうする?何なら一緒に食べようぜ!」 今日の授業が終わって、さっさと自分達の寮へと歩いていこうとするヒイロに、やっとのコトで追いついて肩に手をかけて引き止めてみる。 俺がどんなに明るく接しても、どんなに近付こうと努力しても、あいつはいつも無表情でシカトするんだ。 そして振り返って冷たい視線で俺を見る。 でもって何も言わずにさっさと歩いていっちゃうんだ。 まるで俺に近付くなってオーラを発して…。 だからこそ。 俺はアイツを笑わせたかった。 いつものあの無表情を崩してみたくて、笑った顔を見てみたくて。 興味と。好奇心だけで。 今回もヒイロはさっさと歩いていってしまう。 それがいつもの日常。 わかりきった反応。 でもそれくらいで諦めないのも、いつものことで。 軽くその背中に溜息をついて、ゆっくりとヒイロを追いかける。 そんなにはやく寮にかえんなくっても、せっかくの学生生活だ。 たとえそれが本業じゃないとしても、他に仕事があるにしても、今だけはそれをエンジョイしたっていいじゃないか。 「待てってば!ヒイロ!」 名前を呼ぶ。 友達みたいに。 有る意味友達だとは思うけれど。 親友じゃない。 ただの戦友。 もっとも向こうはそう思っているかわからないが、こっちはそう思ってる。 誰よりも近くて、誰よりもわかり合える、戦友なのだと。 でも誰よりも遠い存在で。 「ヒイロ〜!」 「煩い。」 「お?」 やっと反応を示してきたヒイロに、嬉しくなって駆け寄る。 ヒイロの細い肩に手を置いて、ぐいっとひっぱって。 無理矢理振り向かせようとして。 「なぁ、ヒイロ。知ってた?俺がどうしてこんなにお前に声かけるか?」 「………。」 俺の言葉に、ヒイロの肩がぴくりと揺れる。 あ、またいつもみたいにふりほどかれちゃうかなって思って、肩においた手に力を込めようとして。 「ひい…。」 「デュオ。」 え………? 思いがけないヒイロの言葉に、瞳が見開く。 ヒイロが、名前を………呼んだ? 誰の?俺の。 振り返ったヒイロの、瞳に―――どくんっと。 身体中の血液が波打った。 ヒイロの表情はいつもと同じ無表情…なのに。 瞳がどこか淋しげで、悲しげで。 そんな感じがして…ありえない。 「まっ…!!」 ばしっと手を振り解かれて、ヒイロはスタスタと歩き始めてしまう。 慌ててヒイロに腕を伸ばしても、届かなくて。 違う!!! 「待てよっ!ヒイロ!!」 違うのに!! 追いかけようとした脚が、固まって動かない。 違うのに。違うのに。違うのに。 脚が動かない。 ヒイロにあんな表情をさせたかったわけじゃないのに! 俺はあいつを笑わせたかっただけなのに!! ヒイロ…?? 「デュオーっ!!」 突然名前を呼ばれて振り返る。 もちろんヒイロが呼んでるんじゃないのはわかっていたのに、振り向いた先にはブラウンの髪を持つ級友の姿。 それに少しだけ残念に思って………残念に思ってしまった自分に驚く。 それでもその動揺は隠して、笑うコトに専念して。 「どうした?」 「これから皆で俺の部屋で飲み会すんだけど、デュオもどう?」 「お前らなぁ〜まだこんな明るいうちから寮ん中で何…。」 さっきのヒイロの顔が、脳裏を掠める。 気になるヒイロの瞳。 でも…ショックで。 何故かはわからないけれどもショックで。 罪悪感に包まれていて…ヒイロと一緒に部屋に戻りたくないと、頭のどこかで思って。 デュオは苦笑すると、大きく手を振り上げる。 「おう!行くぜ〜!」 溜息と一緒に、大きく声を出した。 胸の中のモヤモヤも一緒に吐き出すように、大声を出して…。 くしゃりと前髪を鷲掴み、ちらりと…ヒイロの戻っていった寮の方に視線をやる。 ゆっくりと…顔を上げて。 ただ1室の窓を見て。 ゆらりと揺れる影に、胸が苦しくて。 ぎゅっと左胸に手を押し当てると、ぎゅっと制服を握り締めた。 ぶんぶんと大きく頭を振って、1歩。足を前に出して。 先に歩き始めた級友の後を追いかけようと…前に出した足を止めて。 再び振り返ると、窓を見詰める。 窓に映る影…どきりと。 胸が高鳴る。 窓際に寄ったヒイロと、目が合った気がした。 慌てて視線を逸らすと駆け出す。 ヒイロ………? ヒイロ…俺は…お前に…。 →next あとがき アレレ…?昔だしたイチニ本にのせた小説をリメイクしようとしたら なんだか長くなってしまいました。 本ではまだ2P目かなんかのところなんですが…まだ4分の1位な気がするんですが…。 何故かしら…? この小説のイチニは私の中で基本にあるイチニなので 1度書いてるけれどやっぱりサイトにアップしたかったんです。 しかも当時はワープロだったので、パソコンで改めて打ってます〜 ぱちぱちと。 2003/09 天野まこと |