誰か愛する人はいなかったし、作らない主義だった。

友達は沢山いたし、自分から沢山作った。
けれど。
親友はいらなかった。

辛いだけだったから。
死と隣合わせの生活の中で特定の人を作るのは…本当に辛いだけだったから。
自分の死を悲しむ人を作るのは――――。

なのに――――――。










 +++ 境界線










「ヒイロっ!夕食どうする?何なら一緒に食べようぜ!」

今日の授業が終わって、さっさと自分達の寮へと歩いていこうとするヒイロに、やっとのコトで追いついて肩に手をかけて引き止めてみる。
俺がどんなに明るく接しても、どんなに近付こうと努力しても、あいつはいつも無表情でシカトするんだ。
そして振り返って冷たい視線で俺を見る。
でもって何も言わずにさっさと歩いていっちゃうんだ。
まるで俺に近付くなってオーラを発して…。

だからこそ。
俺はアイツを笑わせたかった。
いつものあの無表情を崩してみたくて、笑った顔を見てみたくて。

興味と。好奇心だけで。

今回もヒイロはさっさと歩いていってしまう。
それがいつもの日常。
わかりきった反応。
でもそれくらいで諦めないのも、いつものことで。

軽くその背中に溜息をついて、ゆっくりとヒイロを追いかける。
そんなにはやく寮にかえんなくっても、せっかくの学生生活だ。
たとえそれが本業じゃないとしても、他に仕事があるにしても、今だけはそれをエンジョイしたっていいじゃないか。

「待てってば!ヒイロ!」

名前を呼ぶ。

友達みたいに。
有る意味友達だとは思うけれど。
親友じゃない。
ただの戦友。

もっとも向こうはそう思っているかわからないが、こっちはそう思ってる。

誰よりも近くて、誰よりもわかり合える、戦友なのだと。

でも誰よりも遠い存在で。

「ヒイロ〜!」
「煩い。」
「お?」

やっと反応を示してきたヒイロに、嬉しくなって駆け寄る。
ヒイロの細い肩に手を置いて、ぐいっとひっぱって。
無理矢理振り向かせようとして。

「なぁ、ヒイロ。知ってた?俺がどうしてこんなにお前に声かけるか?」
「………。」

俺の言葉に、ヒイロの肩がぴくりと揺れる。
あ、またいつもみたいにふりほどかれちゃうかなって思って、肩においた手に力を込めようとして。

「ひい…。」

「デュオ。」

え………?

思いがけないヒイロの言葉に、瞳が見開く。
ヒイロが、名前を………呼んだ?
誰の?俺の。

振り返ったヒイロの、瞳に―――どくんっと。

身体中の血液が波打った。

ヒイロの表情はいつもと同じ無表情…なのに。
瞳がどこか淋しげで、悲しげで。
そんな感じがして…ありえない。

「まっ…!!」

ばしっと手を振り解かれて、ヒイロはスタスタと歩き始めてしまう。

慌ててヒイロに腕を伸ばしても、届かなくて。

違う!!!

「待てよっ!ヒイロ!!」

違うのに!!

追いかけようとした脚が、固まって動かない。
違うのに。違うのに。違うのに。
脚が動かない。
ヒイロにあんな表情をさせたかったわけじゃないのに!

俺はあいつを笑わせたかっただけなのに!!

ヒイロ…??

「デュオーっ!!」

突然名前を呼ばれて振り返る。
もちろんヒイロが呼んでるんじゃないのはわかっていたのに、振り向いた先にはブラウンの髪を持つ級友の姿。
それに少しだけ残念に思って………残念に思ってしまった自分に驚く。
それでもその動揺は隠して、笑うコトに専念して。

「どうした?」
「これから皆で俺の部屋で飲み会すんだけど、デュオもどう?」
「お前らなぁ〜まだこんな明るいうちから寮ん中で何…。」

さっきのヒイロの顔が、脳裏を掠める。
気になるヒイロの瞳。

でも…ショックで。

何故かはわからないけれどもショックで。
罪悪感に包まれていて…ヒイロと一緒に部屋に戻りたくないと、頭のどこかで思って。
デュオは苦笑すると、大きく手を振り上げる。

「おう!行くぜ〜!」

溜息と一緒に、大きく声を出した。
胸の中のモヤモヤも一緒に吐き出すように、大声を出して…。
くしゃりと前髪を鷲掴み、ちらりと…ヒイロの戻っていった寮の方に視線をやる。

ゆっくりと…顔を上げて。
ただ1室の窓を見て。

ゆらりと揺れる影に、胸が苦しくて。

ぎゅっと左胸に手を押し当てると、ぎゅっと制服を握り締めた。

ぶんぶんと大きく頭を振って、1歩。足を前に出して。

先に歩き始めた級友の後を追いかけようと…前に出した足を止めて。

再び振り返ると、窓を見詰める。

窓に映る影…どきりと。
胸が高鳴る。

窓際に寄ったヒイロと、目が合った気がした。

慌てて視線を逸らすと駆け出す。

ヒイロ………?

ヒイロ…俺は…お前に…。


→next



あとがき

アレレ…?昔だしたイチニ本にのせた小説をリメイクしようとしたら
なんだか長くなってしまいました。
本ではまだ2P目かなんかのところなんですが…まだ4分の1位な気がするんですが…。
何故かしら…?

この小説のイチニは私の中で基本にあるイチニなので
1度書いてるけれどやっぱりサイトにアップしたかったんです。

しかも当時はワープロだったので、パソコンで改めて打ってます〜
ぱちぱちと。

2003/09 天野まこと



→戻る