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「じゃあな。ヒイロ。今夜は良く寝ろよ。」

軽くウインクをしながらいつもとかわらない口調でデュオが言う。
ぽんっとヒイロの肩を叩いて、自分の部屋の方へと足を向けて。
ポケットの中から無造作に鍵を取り出すと、ソレを鍵穴へとさし込んだ。

胸が…切なかった。

ヒイロはぎゅっと握り拳を作る。
胸の奥が苦しくて、切なくて。
もう2度と…会えないかもしれない。
あまりにも自分達の任務は死に近かった。
覚悟はしていた。昔は―――。

しかし…今は恐かった。

大切な…失いたくないモノができてしまったから。
大切な人が出来てしまったから。

その人と離れることが…。
今のこの幸せな時を失うことが…。
すごく恐かった。

すごく、すごく恐かった。

ガチャリ…

デュオの部屋の鍵が開く音が、静かな廊下に響く。
それにはっと顔を上げると、ヒイロはこくりと唾を飲みこむ。

「デュオっ…!!」

ばっと手を伸ばして、扉を押し開こうとしていたデュオの手首を掴む。
そのヒイロにデュオは驚いて、ただでさえ大きな瞳を更に見開いて。

「ヒィ……。」

ふわりとデュオの髪の香が、ヒイロの鼻を擽る。
太陽みたいな、おひさまの、暖かな香。
細くて柔らかな、自分とは対象的な手首。

気が付いた時にはすでに…ヒイロはデュオを後ろから抱き締めていた。
細くて…強く抱き締めたら折れてしまいそうな腰。
死神と言う名を背負うにはあまりにも小さな…背中。

「どーしたんだよ…?ヒイロ…・お前らしくないぜ?」

こくりとデュオが唾を飲みこむ音が聞こえる。

自分らしく無いのはわかっている。
でも…それは…すべて…。
お前の。
デュオの前だから。
俺をかえたのは…お前だから。

「ヒイロ…マズイって。」

デュオの声が困ったような声色で。
いつだってそうだった。

ヒイロが自分の行動に理解しかねて困っている時も。
その行動の意味を理解しているのは、いつだってデュオが先で。

きっと今も。

気がついたらデュオを抱きしめていて、どうしてなのかわからなくて。
身体が勝手に動いたことなのに。
その行動にヒイロが理解する前に…デュオにはヒイロが何故こんなことをしたのかわかっているみたいで。

『マズイって』

何が?

何がマズイ?

「ヒ……。」

ぐいっとデュオの頤を掴んで言葉を遮る。
冷たかった自分の唇に、デュオの温かくて柔らかな唇が重なり………そのぬくもりがじんっと伝わってくる。

デュオっ…!!!

デュオが愛しくて。デュオのすべてが本当に愛しくて。
この手を放したくない。
離れたくない。
この温もりを失いたくない。

いつだって冷たい自分に、暖かな温もりを与えてくれた人。

デュオといる温もりに慣れてしまったから。
デュオのいる温もりに救われてしまったから。

デュオのいない、冷たい世界は――――恐い。

「ヒイロ…。」

濡れたデュオの瞳に、自分の顔が映る。
ユラリと揺れて、吸い込まれる青。

ふっと、デュオの手が上げられたのが視界にうつる。
その手はゆっくりと円を描いて……ヒイロの首に絡められた。

「わかった。」

低くデュオが囁く。
甘く痺れるようなその声に、ヒイロは再びデュオの唇に吸い付いた。
デュオが片手でドアを開いて足を部屋に踏み入れる。

くいっと頭を引っ張られ、そして離れようとする唇を追いかけるように、ヒイロもその部屋へと足を踏み入れた。
後ろの方でぱたりとドアの閉まる音がして、それを合図に唇を離せば…デュオの唇が部屋にさしこむ月明りにてらてらと輝いていて。
その妖しさに身体中の血液が波打つ。

絡めていた腕を放してデュオが窓際に寄る。
それを追いかけるようにヒイロも窓際に駆け寄った。
そっと窓に手を置いて、デュオが振り返るその姿は―――壮絶に綺麗で。
月明りに照らされたデュオが、笑う――――。

「月がみてるけど………いいのか?」

デュオの言葉に、ぞくりと背中の毛が逆立つ。
ヒイロは勢いよくデュオの腕と腰を掴むと、自分に引き寄せた。



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あとがき

なんだか…全然違うものになってきました…(><)!?
すいません〜。
もう本当うちのイチニってニセモノですわ〜…。
つうかなんかもう〜〜あー…!!
うまくいかなくてぐちゃぐちゃにしたい気分!!
紙に書いてたらぐちゃーっとして丸めてぽいってやってそう…。

でもアップしてしまいます…何回書いてもこういう展開になっちゃうんだもん…。



2003/09 天野まこと



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