携帯話 1 



獄寺くんの携帯電話の番号を聞いた。
いつもよりも改まった字で書かれたソレは、走り書きではないことを示していて。
獄寺くんがオレが読み間違えないように丁寧に書いてくれたのか、それともコレをかくのに緊張したからなのかはわからなかったけれど。

『十代目っ…!こ、コレ、オレの携帯電話番号です。』
『え?あーありがとう。』
『宿題でわからないとか、阿呆牛が暴れてるとか、何か困ったことがあったらすぐかけてください。』
『うん。』
『すぐに飛んできますから!』
『うん。ありがと。』
『絶対かけてくださいね!俺、ほんとにすぐに飛んできますから!』

鼻息荒く、でも少し頬を染めて獄寺くんはそう言ってた。
俺は携帯を持っていないから、この電話番号を登録とかすることはできないけれど…生徒手帳に入れて、いつも持ち歩いている。
貰ったときは、別になんでもない番号の羅列だったのだけれども…。

小さくため息をつく。

夏休みにはいってから毎日ながめていたから、もうソラでいえるくらいに暗記してしまった。
数学の公式も、英語の例文も、まったく暗記できない苦手な俺が。
すらすらいえるくらいに暗記してしまった。

それがどういう意味か、君はわかっているんだろうか。

「今何してるのかなー…。」

いつもいつも学校がある日は毎朝迎えに来てくれてた。
いつも気がついたら隣にいて、気がついたら一緒にいて、すぐそこで笑ったり、怒ったり、焦ってたり。表情豊かな獄寺くん。もちろん夏休み中も何回も遊びに来てくれているから、ずーっと会っていないわけではないけれど。
それでも『アイタイ』と思うのだ。
しょうがない。

『困ったことがあったら、すぐかけてください。』

何か無いとかけちゃいけないのかな。
用事が無いとかけちゃいけないのかな。
困ったことがないと、ダメなのかな。

さっきからずっと子機とにらめっこだ。

ため息ばかりが口から出てくる。

「でも、正直…困ってるんだよね。」

だって会いたい時に君がそこにいないから。
会いたくて会いたくて会いたくて、叫び出したいくらいに会いたくて。
困ってしまって、どうしていいのかわからない。

「困ってるよ。獄寺くん。」

子機に向かってため息一つ。
今日何度目かのため息を零した。



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