携帯話 2 



十代目に携帯の電話番号を渡してからもう一ヵ月以上たっている。
渡してから一度もなったことはない。
鳴らない。ということは十代目が困っていないということで、それはとてもすばらしいことだ。
なのに・・・それなのに。何故かつまらない。
いや、つまらないという表現は適切ではない。
正直にいえば、きっとこういう気持ちは、淋しい。と表現するのが一番正しいのだろう。

鳴らない電話を握り締める。

今、何をしていらっしゃるのかな?
夏休みの宿題でこまったらすぐかけてくださいね。
あのばか牛が騒いでたらすぐかけてくださいね。

・・・会いたいと。

会いたいと少しでも思ってくださったなら、すぐにかけてきてください。
すぐにとんでいきます。

声が聞きたいと、少しでも思ってくださったのなら、すぐかけてください。
いっぱいしゃべりますから。

学校なんてかったるいだけだったのに、いざなくなるとあなたに会える場所だったのだとわかった。
別に会いにいきたければ会いにいけばいいのだろう。
俺は十代目の右腕で、いつも傍でお守りしなければいけない立場なのだか。
なのに素直に会いにいけないのは、自分のなかにある、このやましい気持ちに気が付いてしまったから。

会うのに必死に理由を探してる。会いたいです。
今、めちゃくちゃ会いたいです。
会いにいってもいいですか?

鳴らない電話を握り締めて、ため息一つこぼした。うだうだしててもしょうがない。
やっぱり会いにいこう。
大きな、大きなスイカを持って。

立ち上がって、テーブルのうえに無造作においてあった財布を手にとる。
鳴らない電話もポケットにしまって。
家の鍵をひろおうとした瞬間。
のばした手がとまった。

聞き慣れた旋律。
自分の一番好きな曲だ。
だって十代目のイメージどおりな曲だから。
でも携帯の着信音として聞いたのは、今日が初めてだ。
だって、この着信音を設定した人はたったお1人しかいないから。
そのお一人がかけてくださらなければ、決して聴けない旋律だったから。

ということは、この着信音がなるということは、かけてくださっているお方はあのお方なわけで。

あわてて携帯に手をのばす。
あまりにもあわててしまって、なかなかポケットからとりだせなくて。

「うわわわっ」

切れてしまう!やっと取り出せた携帯を開いて、あわてて耳にあてる。

「は、はい!」

十代目!
勢い良くでた電話の向こう側。
あと少しのささいなタイミング。
ツーツーという虚しい音にがっくりて肩を落とした。




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