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■■■B.D (4)



「さ」

ゆさゆさといまだ眠りの世界にいる金髪の青年の身体を揺らして。

「ん」

もう一度ゆさゆさと揺らして。

「ぞー!!」

ぴくりと眉の動いた青年の顔を覗き込む。
するとゆっくりと青年の眼が開いて、不機嫌そのものな瞳でぎろりと睨みつけられた。
それでも悟空はひるまない。
ひるまない―――どころか。
眼をあけて自分を見てきた…正確には睨んでいるのだが、そんなことは悟空にとってはあまり関係ないらしい。
彼が起きた。ソレが一番重要らしかった。
だから嬉しそうに。それはそれは嬉しそうに。
にぱっと笑う。

「てめェ…。」
「誕生日おめでとー!三蔵っ!!」

ぐっとガッツポーズを作って、悟空はめいっぱい叫んだ。
その大声は、静まり返ったあたりに響くほどで。
三蔵は無言で起き上がると、もそっと懐に手を差し込み――――。

「煩せェっ!!」
「いってェー!!」

スパーン!!!!

悟空の大声に負けないくらいの大声で怒鳴ると、それまたその大声にも負けないくらいの激しい音を立てて悟空の頭をハリセンでひっぱ叩いた。
そして悟空は叩かれた頭を抑えて、三蔵の布団にそのままごろりと倒れこむ。

「ってか今何時だと思ってやがるんだ…てめェはっ!!」

窓の外を見れば、全然まだまだ真っ暗だ。
真っ暗どころか、日が昇る気配すらない。
窓の外ではぽっかりと、月が見えるほどだから…夜明けはまだまだ当分先のようだった。

「んーと、日付が変わったばかり…だよ?」
「………起こすな。」
「だって、三蔵の誕生日じゃんか。二人でお祝いって、約束しただろ?」
「………せめて朝になってからにしろ。」

ごろごろと三蔵の布団に転がって、三蔵をじっと見てくる悟空にため息が出る。
普段はとっくに悟空も寝ている時間だ。
なんでこんな時間に起きているのだと思って…よくよく思い出してみれば、昨夜…悟空は夕飯を食べてすぐに布団にもぐりこんでいたことを思い出した。
いつもなら一緒に寝ると騒いで、三蔵が眠る時間になるまで舟を漕ぎながらも布団に入らない悟空が、一人で大人しく布団に入ったのだ。
今思えば…このためだったのだろう。
だったらだったで、それを一言言え。
何一人で寝てすっきりして、人のことを起こしやがるんだ。
………いや、なんにせよ、この時間に起こすな。

「…三蔵…嫌だった?」

少し不安げな瞳で悟空が三蔵を見てくる。
黄金色の瞳が不安の色に染まって揺れて。
三蔵は小さくため息をつく。

「………時間を考えろっつってンだよ。」
「…だって、誕生日プレゼントだから。」
「………プレゼント?」

三蔵は嫌とは言わなかった。
ということは、嫌ではなかったと言うことだ。
そう解釈して、少しだけ安心した顔を取り戻す。
そしてごろごろと転がっていた悟空が、むくりと起き上がった。
長い悟空の髪が、さらりと、彼の肩で揺れて。
三蔵はベットの脇においてあったタバコの箱を手にとって、1本取り出し口に咥える。

「三蔵が好きだよ。」
「………。」
「大好き。」
「………。」
「好き。好き。好き…。」
「なんなんだ。突然。」

好き好きと連呼しながら、自分の頬に手を伸ばしてきた悟空の手首を掴む。
掴むと、悟空がびくりと肩を震わせた。
タバコを吸う気も失せて、火のついていないタバコをそのまま握りつぶして、ぱらりと床に落とした。

「この前の悟浄の誕生日にさ、八戒、料理がプレゼントって言ってたじゃんか?だから聞いたんだ。誕生日にはプレゼントをあげるのかって。」
「………。」
「そしたら八戒は、そうですよって言うから。だから俺も三蔵にプレゼントをと思って。」
「…で?何がプレゼントなんだ?」

相変わらず悟空の思考回路はいまいちよくわからない。
単純かと思えば、単純すぎてわからなかったりもする。
三蔵の質問に、悟空はまた笑った。
花が綻ぶ様に、瞳を細めて、ゆったりと。
それはいつもの無邪気な笑顔とは違って、どこか幸せそうな笑顔で。
三蔵は一瞬息を呑んだ。
悟空の手首を掴む手が、微かに震える。

「三蔵が好き。」
「……それがか?」
「俺、プレゼントなんて何をあげていいのかわからなくて。何か買うにもお金ないし、八戒みたいに料理も上手くねェし。で、八戒に相談したんだ。」
「………。」

だんだんと悟空の言葉の意味と、ことの成り行きがわかってきて…三蔵は何度目かのため息をつく。
微笑う悟空の頬を優しく手で包むと、悟空はまた、幸せそうに笑った。












数日前、三蔵と二人でお誕生日を過ごすことにした悟空は、一体どうすればお祝いになるのかと悟浄と八戒に聞きにきたのだ。
正確には八戒になのだけれども、たまたま悟浄も家にいたから二人に聞いてみた。
そうしたら一般的にはプレゼントをあげる日ですよ。と返ってきたのだ。

『プレゼントかァ…何がいいのかなァ…。』
『あの生臭坊主は欲しい物なんてなさそうだな。ってか、欲しい物は自分で手にいれンだろ。』
『………あまり三蔵が何かを欲しがるってのは見たことない気がする…。』

悟空がそういうと悟浄はタバコを吸いながら笑った。
ちょっとニヤニヤした笑いで、意味がわからなくて。
それを聞こうと思ったら、八戒がホットチョコの入ったコップを持ってきて…その匂いにつられて振り返ってしまって…悟空の意識は瞬時にしてそちらへと向かった。

『悟空。基本的にプレゼントは自分が貰って嬉しい物を相手にあげるんですよ。』
『自分が貰って?』
『自分が貰って嫌な物をあげますか?あげないでしょう?そして自分が貰って嬉しい物の中から、相手が喜びそうなものを選べばいいんですよ。』

にっこりと笑って八戒がホットチョコの入ったコップを悟空に手渡す。
八戒の言葉をひとつひとつ、口の中で呟いて。
悟空はこくりとホットチョコを飲み込むと、自分が欲しい物を一つ一つ頭に思い浮かべてみる。

『腹いっぱいの肉まん…とか?春巻きとか、炒飯とか…。』
『食い物ばかりかよ。』
『食い物以外にもあるってば!たとえば…』

ははっと笑う悟浄にむっとして、言いかけた言葉を飲み込んだ。
飲み込んで―――頬がカーっと熱くなる。
ソレを見ていた悟浄はにやっと笑って、八戒はオヤオヤと笑って。

『なァにが欲しいのかなァ?小猿ちゃんは。』
『うっさい!』
『その様子だと、何か欲しい物があるんですね。それは三蔵が喜びそうですか?』

八戒の優しい笑みをちろりとみて…また俯いて。
ちょっとだけ考えて、こくりと唾を飲み込む。

『わかんない。』

でもなんだか心が、ほっと、温かかった。

『わかんないけど。でも、俺はすっげェ嬉しい。』

悟空はそういうとにへらっと笑って…その笑みに悟浄と八戒もつられて笑った。
それが数日前、悟空が三蔵へのプレゼントを何にするか決めた瞬間だった。















「俺、三蔵に『好き』って言ってもらえたらすっげェ幸せ。嬉しいよ。」

自分の頬に宛がわれた三蔵の手のひらに頬を寄せて。
悟空が微笑う。
三蔵は無言のまま、その悟空をじっと見た。
じっとみて…戸惑う。
目の前で微笑う悟空の、その顔に。

「だから、三蔵も嬉しいかなって思ったんだ。だから、プレゼントはコレ。」

そう言うやいなや、三蔵の手のひらに唇を寄せる。
手のひらを掠めた悟空の唇の感触。
そして悟空のその行動。
戸惑ったまま、動けない三蔵は―――。

「好きだよ。三蔵。」

ああ。もう。本当に、煩い。

くっくっと、喉の奥で笑って。
そんな三蔵に今度は悟空が驚いた。
三蔵が、笑ってるから。
ということは、このプレゼントは成功したのだろうか?
三蔵に喜んでもらえたのだろうか?

「煩せェよ。バカ猿。」

そして悟空の頬に当てていた手をするりとおろして。
そのまま悟空の肩にかかっていた髪の毛をひとふさ、掴んで。
さらりと手のひらの中で感じる髪の感触。
自分の言葉に少し悲しそうな黄金色の瞳。
ショックだったのか震える、唇の先。

「いつも言ってる言葉じゃねェか。」

震える唇に、自分の唇を押し当てる。
暖かく、柔らかな、悟空の唇の先。
ぺろりと舐めて唇を離せば、真っ赤に頬を染めた悟空がいた。

そして次にその驚き顔は、笑みに変わる。

ころころと変わる悟空の表情。
怒ったり、不安そうになったり、泣きそうになったり、笑ったり。
それは世の中楽しくて仕方ないといったような満面の笑みだったり、花が綻ぶような微笑だったり。
それは幸せそうな、世界中の幸せを独り占めしたみたいな笑みだったり。恥かしさを含んだ笑みだったり。

「プレゼントなんて…いらねェ。」

いつも貰ってるから。
そう言うことはこの先も、きっと、ずっと、一生ないけれど。

この自分が戸惑うくらいに、いつもいつも、悟空は驚く言動に出る。
それはたまに、凄く愛しいと感じるもので。
悟空のこの笑顔があれば、それだけで自分は十分なのだと。

「てめェはそこで…。」

笑ってろ。

一生口にすることはないけれど。
それを含めてもう一度。
悟空の唇に唇を寄せた。







おまけの悟浄&八戒さん





あとがき

やっとこ三蔵様お誕生日話完成ですv
長かった…しかもこれも凄く短い話になるはずが
長くなってしまいました
寺院時代の二人です。

三蔵様お誕生日おめでとうございますv

2004/11 まこりん




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