| ぱしん…っと。 乾いた音が響いて、目の前では今までに見たこともないような彼女の顔があった。 じんじんと痛む頬が熱をもつのがわかる。 それにそっとてのひらを当てれば、緊張から汗ばんだ掌がピッタリと吸い付いた。 「あなたにだから…あの子をっ…!!」 綺麗な黒銀の髪が、さらりと揺れる。 ふるふると真っ赤になった手を震わせて、彼女は唇を噛み締めた。 「あの子を…お願いしてもいいと…思ったのに…!」 震える手を胸元に引き寄せて、彼女は俯いた。 ぽたりと木の床に雫が落ちて、それはぽたぽたと数を増して。 「クレア…さん…?」 フェイトは彼女の名前を呼んだ。 ふるふると頭を振る彼女からは、ぽたぽたと涙が零れて。 わけのわからない頬の痛みに、フェイトは首を傾げた。 ■■■ Destiny act.2 もう1度エリクールにきたのなら、絶対にネルに会うべきだと言ったのはマリアだった。 それにクリフは久しぶりに会ってみたいなと言いだし、幼馴染のソフィアも噂のネルさんに会ってみたいといいだし…。 アルベルはただふんと鼻を鳴らしただけで、特に会いたくないとも言わなかった。 それならシランドに行く前にアリアスに寄ってみようという話になった。 もしかしたらネルはそこにいるかもしれないからだ。 アリアスの街はあのバンデーンの攻撃から月日がたったおかげなのか…僅かだが復興の兆しをみせていた。 それでも墓場の数は以前よりも増し、その墓参りにきている人の数も増えていて、どこか暗い雰囲気ではあったのだけれども。 もしかしたらネルがここにいるかもしれない。 そう思ったらフェイトは中々…彼女のいるかもしれない領主の屋敷に足を向けることが出来なかった。仲間…マリアとソフィアに半分引き摺られるようにしてきてみれば、部屋に入った瞬間クレアと目が合った。 ネルのことを聞こうと、彼女に近付いた瞬間…。 彼女のひらてうちが飛んできたのだ。 戦争中でさえ冷静で、声を荒げたことのなかった彼女が声を荒げた。 それに驚いてる間に言葉を浴びせられ、意味がよくわからない。 だが彼女がネルと自分―――フェイトのことを言っているのだということはわかった。 彼女がこんな風に感情を剥き出しにするのは、彼女がこの世でもっとも大切に思っている人、ネルのこと以外ではありえない。それに彼女との共通点はネルだ。 だから彼女が自分に対してネルのこと以外でこんなに怒る筈がない。 「待ってください。クレアさん!意味が…。」 「わからないとでも?」 涙で溢れる瞳で睨みつけられてフェイトはグッと息を呑んだ。 わからなくは―――ない。 心当たりが多過ぎる。 「あの子は…ネルはっ…!」 「待って!別にフェイトはネルさんをおいていくとか…そういうことじゃなくて…。仕方無かったのよ!彼女を危険な目に合わせたくないから…巻きこみたくないから…彼女と別れる決心を……。」 フェイトとクレアの間にすっとはいってきたマリアを、フェイトが手で制す。 そのフェイトに今度はマリアがぐっと息を呑んだ。 「あの子の気持ちは知っていた筈です。なのにあなたは……!そんな綺麗事っ…!あの子が、どんなに…!!」 再びクレアの瞳から涙が零れる。 フェイトはぎゅっと唇を噛み締めると、しっかりと…クレアに頭を下げた。 言葉はなかった。 何も言えない。 彼女を置いてこの星から出ていったのは事実だし、『彼女を巻きこみたくなかった』と言ってもそれは確かに綺麗事で。 自分は彼女を傷つけた。 「あの子はもしかしたら…クリムゾンブレイドをやめるかもしれません…。」 「え?」 「あの子は長い休暇をとりました。多分今頃はシランドにある自室の荷物の整理をしているでしょう…。会いたければ…いいえ、あなたには彼女に会う義務が有ります。」 クレアの力強い瞳に、フェイトは頷く。 「謝るのなら私にではなく、あの子に。」 クレアの言葉にマリアは眉を寄せる。 フェイトはもう1度頭を深く下げると、くるりとクレアに背を向けた。 震えるフェイトの肩に、マリアがそっと手をのせようとすると、すいっとフェイトが歩き出す。 それにマリアは唇をかみしめて。 行き場のない持ち上げた手を、そっと胸の前に抱き抱えた。 next→ あとがき |