| 「そんなっ………う…嘘だろ…?」 「…あなたに身の覚えがないのなら、私には誰の子かまではわからないわ。」 「………。」 「でも、彼女が妊娠しているのは、確かだとおもう。」 ■■■ Destiny act.4 妊娠………? 耳を疑った。 自然と唇も指先も震えて、呼吸がうまく出来なかった。 頭はくるくる回って、眩暈もしてくる。 言われた言葉がイマイチ理解できない。 頭は理解できていないのだが、身体は理解できたのだろうか? 金縛りにあったみたいにうまく動かせなくて。 「…ちょっと…まって…くれ…。」 くらつく頭に指を押し当てる。 息を吸って。吐いて。吸って。吐いて。 繰り返すうちに頭の中はクリアになっていく。 「どういう…ことだよ。」 「……違和感を得たのは最初に会った時。机に向かって座っていた彼女が立ち上がった時よ。お腹を…おさえていたわ。」 『フェイトっ…!?』 ガタンと大きく音を立てて立ち上がったネル。 驚きから大きく瞳を見開いて振り返ったネルの、その顔の美しさに瞳を奪われた時のことらしい。 そんな仕種をしていただろうかと思い出そうとしても、思い出せるのはあの綺麗な顔だけで。 「で…も…それはたまたま…だったかもしれない。」 「…次に気が付いたのは大聖堂で。あのイスの間を通る時も抑えてた。昔はそんなクセなかったのに。腰に手を当てることはあったけれどね。」 じっと自分を射抜くようにみてくるマリアから、フェイトは瞳を反らした。 額に汗が浮ぶ。 呼吸がうまくできない。 ネル。さっきの再会でのネル。 どんなだった? 綺麗だった。 壮絶に綺麗だった。 昔よりも綺麗で、それでいて…。 『はやく行っておいで。』 微笑むネルの笑顔が温かかった。 「でもたまたま…腹痛があったのかもしれないよ。痛いところに自然と手を当ててしまうとか、よくある…し。」 フェイトの言葉に、マリアは何とも言えない顔で首を振る。 そんなマリアに、フェイトは息を呑んだ。 「妊婦さんってね。無意識のうちにお腹を庇うのよ。お腹に丁度当たるような高さのところを通る時や、少しゴタゴタしたところを通る時にはね…きっとそれは本人にも気がつかないうちに芽生える、母性本能みたいなものなんだと思うけれど。」 言われてみれば…。 ネルに大聖堂へと誘われて…部屋を出ようとしたネルが…。いつもみたいに腰に当てていた手をすっと…滑らせるように…お腹の前へとまわしていたのを思い出した。 部屋を出ようと、フェイトが押し開いたドアを出ようとしていた時のことだった。 ぶるりと身体が震える。 歯がカチカチと音を立てた。 「でも…。」 「私の母も………そうだったから。」 「っ………!!」 悲しい笑みのマリアに、フェイトは慌てて口を抑えた。 なにも言葉が出ない。 なんて言っていいのかわからなくて。 「…そんなに否定したいってことは…フェイト…。」 「違うっ…!!否定しているわけじゃなくて…!!まさか妊娠だなんて…っ!!」 弾けるように飛び出た言葉。 口を慌てて再び手で抑える。 汗がぶわっと吹き出て、目の前で目を大きく見開いたマリアに背を向けようとして…ぐいっと肩を掴まれた。 「最低ね…!あなた…ネルと別れるって知っていてそんなことっ………!!」 ぐいっとマリアの方を向かされて、瞳を睨みつけられる。 ばくんばくんと心臓は大きく波打ち、汗はだらだらと吹き出て。 頭の中ではあの日の出来事がフラッシュバックした。 チカチカと鳴るシグナル。 どうかしてた。 どうかしてたんだ。 あの日。 乱れたシーツ。 乱れたネルの髪、吐息、桜色に染まった白い肌。 爪先まで伸ばされた指先。 欲情した瞳。 『ふぇいと…っ……!』 聞いたコトの無いくらい艶やかな声で呼ばれた自分の名前。 何故か。 何故か。 何故か………ネルは拒まなかった。 がむしゃらに抱き締めた細い身体。 拒絶されてもおかしくは無かったのに、背中に彼女の細い腕がまわされて。 熱い吐息が―――耳にかかった。 震える彼女の身体はこの上なく自分を煽って誘い。 『ふぇい…と…。』 潤む瞳には吸いこまれるように意識が落ちて。 『ネルさんっ………!』 その細い身体を掻き抱いた。 「そんなこと…よくできたわね…。」 睨みつけるマリアの瞳からくる責めに、目を叛ける。 ぐるぐるした頭。吹き出る汗。 震える拳。 「………止まらなかったんだ。もう会えないって思った。これが最後だって……。」 「彼女が好きだからこそ、するべきではなかったわ。」 「綺麗事だってわかってる。でもっ……止まらなかったんだよ。」 唇を噛み締めた。 震える拳は一体何故だろうか。 もう何に後ろめたくて何のためだったのかとか、何がしたかったのかとか。 欲望のままだったのか、そこに愛はあったのかとか。 色々なものが頭をくるくる回ってわからなくなってくる。 ネルに会えないと、会う資格はないと思っていたのは、そのことがあったせいもあった。 彼女に恨まれているとおもったから。 会ったら謝罪の言葉を。 そう思っていたのは…置いていったことにたいしてじゃない。 『ごめんなさい…。』 再会してすぐに口からでた謝罪の言葉は………あの最後の日の…自分の行動にたいしてだ。 クレアに叩かれた頬の痛みをふと思い出す。 会わなければならないと言っていたクレアの言葉の意味を理解した。 彼女は―――。 ネルは――――――。 『………ついてこいとは…言わないんだね。』 どんな気持ちであの言葉を僕に言ったのだろう…。 next→ あとがき |