「………。」

すとんと。
大聖堂のイスに腰掛ける。
お腹にそっと手を当てて、それが無意識だったことに気が付いてネルは苦笑した。

「………ばかだね。」

フェイトの消えていった下り階段を見た。
隣にいた蒼い髪の女性の、見開かれた瞳を思い出す。

「マリアには気が付かれたかもしれないね。」

誰よりもカンのいい女だと思うから。
一緒にいたのはほんの数日ではあったけれども。
彼女の視線がフェイトを見ているのに気がついたのはいつだったか。
ふっと戦闘終了後にフェイトにヒールをかけていた時だった。
視線を感じてまだ敵が残っていたのかと…そっとその視線の送り主を見た時。

何とも言えない無表情のマリアに気がついた。



■■■ Destiny  act.5



まさか再びフェイトがこの地にやってくるとは思わなかった。
彼は父親を助けるためにここをさって。
でて行く彼を止めることはできなかったし、なにより止めるつもりはなかったし。
これで最後なのだと思ったら、自分の中にあるこの感情の意味に気がついた。

いや…最初からわかっていたのかもしれない。
でも否定していたのだと思う。
気が付かないフリをしたかったのだ。

その感情は自分にとってはマイナスだから。

隠密という自分にはそれは邪魔でしかないから。

弱点をわざわざ作るなんて隠密としては失格だ。

だから気がついても気が付かないフリをしていたかった。

でも…。

でも。

フェイトがあの日。

もうこれで2度と会わないと思って、覚悟しようとしていた日。

部屋にやってきた。

『ネルさん…。』

まるで世界の終りみたいな、そんな悲しそうな顔で。

血の気のない顔色で。

低く囁かれた自分の名前。

『フェイト…どうしたんだい。突然。皆が待っているんだろう?』

『まだ…少し時間があるんです。最後に…お別れにきました。』

一言、一言。
選びながら言うフェイトに苦笑する。
『お別れ』の言葉に確かに胸は揺らいだ。

『そうかい…。』

ベットに腰掛けた。
そしてフェイトも隣に座ればいいと誘うように、隣をぽんっと叩いて。
困ったように瞳をさ迷わせた後、フェイトはぽすんと自分の隣に座った。
それに微笑う。
今思えば…その自分の行動は…。

『僕は、ここで…ネルさんにたくさんのものを貰いました。アーリグリフで助けてもらって…戦闘中も何度も助けてもらって…。』

『何言ってるんだい。それはお互い様だろう?私だってあんた達にカルサア修練場では助けられたし、あんた達のおかげで施術兵器も改良できて。セフィラも守れたんだから。』

『でも僕はっ…ネルさんに救われたんだ!』

突然声を荒げたフェイトに驚いてその瞳を覗き込む。
揺れるマフラーがさらりとベットから落ちたのがみえた。

『僕は自分の力が恐くて、僕のせいでこの星に…ネルさん達に迷惑をかけて…!父さんもソフィアも僕のせいでっ…!!そんなことを思ってた僕にネルさんはっ…!』

ぽたぽたと落ちた雫に驚いた。
男の人の涙を見るのは初めてで。
気が付いたら…フェイトの膝の上で震える拳を、そっと握り締めていた。

『僕のせいじゃっ…ないって…!!』

『フェイト…。』

『あの言葉がっ…僕には本当に嬉しくてっ…救われてっ…!!』

『フェイト…。』

ポタポタと落ちる雫。
フェイトの拳を包む手に、力を込めた。

『ネルさんっ…!!』

『なんだい?』

『好きですっ………!!』

言われると同時に視界が揺れた。
くるりとまわる天井。
気が付いたら組み敷かれてた身体。
ぽすんっとベットが揺れて、自分の今の状況に気がついて。
涙を浮かべたフェイトの瞳が、自分を見おろしていた。

かたかたと震える手で、私の手首を抑え付けて。

『フェイ……。』

名前を呼ぼうとしたら唇を奪われていた。
息苦しくて、呼吸が出来なくて。
やっと唇が解放されたと思ったら、首筋に顔を埋められた。
声を殺して涙してるフェイトに、彼の肩の震えでわかって。
するりと解放された腕を………そっと持ちあげた。

華奢なその細いフェイトの身体は、組み敷かれてみると男らしさも感じて。
震えるその肩にそっと腕をまわして、抱き締めた。



それが………きっと私の返事。



「さよならを決めたのは、なにもアンタだけじゃないんだよ。」

首に巻いていたマフラーをそっと手にとる。
さっき…カナンへ向かうフェイトに、コレを渡そうかと思った瞬間があった。
一緒にきてくれと彼が言ってくれたら、渡そうかと思っていたマフラー。
この大聖堂…アペリス神の前でアペリスの巫女である女王陛下から直接、自分達クリムゾンブレイドはこのマフラーを授かる。
そして…はずす時もココでだ。

外す時。

意味するのは2つの理由から。

ここをフェイトと二人で並んで歩いた時、想いを重ねていたのだ。
コレから先、マフラーを外した自分と微笑むフェイトが、決して並んで歩くことはないこの場所を…フェイトと歩けた。
それだけでいいじゃないかと。
サヨナラを決めた筈の自分に苦笑した。
人並みの幸せはもともと期待なんてしていない。
だからはずしかけたマフラーは、そのまま外さずに。
ただ彼の去る姿だけはこの目で見届けようと思った。

「…思い出で生きていくなんて、私らしくないんだけどね。」

苦笑する。
折り畳んだマフラーをそっと、自分の横に置いて。
一つ目の理由で外す日は一生こないのなら、二つ目の理由ではずすだけ

お腹をさすって、立ち上がる。

「ネル?それは………。」

大聖堂から出ようとした自分に、後ろからロザリアが声をかけてくる。
足を止めて………ゆっくりと振り返って。

「ソレ…お願いしてもいいかい?」

「ネルっ!?どこに……。」

「………この身体で、隠密なんて出来やしないからね。」

そっとお腹に手を当てて…軽く微笑った。




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あとがき

5話目おわったー
なんか女々しいネルさんでいやん
ってかクリムゾンブレイドってネルとクレアの他にもいるのかなー…
女王陛下直属が二人ってのはどうかと…??
ウーム…

ま、これは作りものの話なんで(おいおい)
あまり信じこまないでください〜
ツッコミは優しくお願いします…ええ…

つうかラストどうしようかね…(遠い目)

基本的に私はあまりハッピーエンドは好きでは無いです…。
次でラストかな…??

2004/03/28 まこりん



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