| 「ネルさんっ!!」 大声で彼女の名を呼んだ。 これでもかってくらい大きな声で。 「ネルっ…!!」 今まで出したこともないくらい大きな声で。 彼女の名前を呼びながら大聖堂に転がりこむ。 でも。 そこにはもう。 ダークレッドの髪の彼女はいなかった。 ■■■ Destiny act.7 「フェイトさん…これを。」 「………。」 大聖堂にいた女性…確か、ロザリアという名前だったと思う。 ネルと会話しているのをみたことがあった。 彼女が自分にさしだしてきたマフラーに、目が釘付けになる。 「これ…は…。」 指先が震えた。 唇の先も震えた。 指先をあてれば、まだほんのりとぬくもりの残るそのマフラー。 一瞬躊躇って、でも自分を真っ直ぐに射抜くロザリアの瞳にコクリと唾を飲みこんで…ぎゅっとそのマフラーを握り締めた。 「これを…ネルが。あなたに。」 「……彼女は…ここをでていったんですか?」 「…ええ…。これをあなたに…渡してくれと。彼女が戻るその日まで、あなたに預かっていてもらいたいらしいんです。」 「…それは…。」 どういう意味で? 言いかけた言葉がとまどわれた。 口許が自然と緩みそうになる。 「ネルは今でていったばかりだから…だから…おいかけてあげてください!」 言われたと同時に弾けるように飛び出した。 まだぬくもりの残るマフラー。 走りながらそっと鼻に近付けると、あの夜に嗅いだネルの香と同じ香がした。 どくんどくんと血液が波打つ。 妊娠しているネル。 二人の子供が、愛しい彼女の中にいる。 それは…確かだ。 このマフラーを置いて言った理由が、自分が思うとおりならば。 「ネルさんっ…!」 大聖堂を飛び出したと同時に、目の前に現れた堅いものにぶつかる。 どんっと音がして弾かれて。 倒れそうになったところを、ぶつかったもの…いや、ぶつかった相手に支えられた。 「おい、大丈夫か?」 「…ああ…。」 くらつく頭をぶんっと振って。顔を上げれば見知った顔があった。 「クリフ…ネルさんを見なかったか?」 「今さっき会った。昔は見たこともなかったような顔つきだったから一瞬戸惑ったぜ。」 「………見たこともなかったような…?」 「優しい笑みだった。」 母親の笑み? 「そうか。ありがとう。」 マフラーを握り締める手に力を込めて再び走り出そうとして。腕を掴まれた。ぐいっとひっぱられて、うっとおしそうに振り解こうとしたクリフの腕を振り解ける筈もなく。 「おい、マリアは?一緒じゃなかったのか?」 クリフの真剣な瞳に、はっと息を呑む。 とたんに先ほどの突然の口付けを思い出した。 冷たい唇だった。 震えてた。 泣いてた。 自分は―――マリアの気持ちを知っていた。 けれど。 受け入れることなんてできないから。 だから―――。 「奥に―――。クリフ…マリアは……。」 言いかけたフェイトの腕を放すと、クリフがどんっとフェイトの肩を押す。 皆まで言うなと瞳で言って、顎でくいっと合図をして。 そんなクリフにフェイトは小さく頷いて。 「頼む。」 そう一言だけ言って、再び走り出した。 「言われなくても。」 クリフのそういう声が小さく耳に聞こえて、フェイトはそっと瞳を伏せた。 そして開くと前を睨みつける。 色々な想いが交差して。 でも心の奥にあるのはネルの笑顔。 ここで追いかけなかったら、大切なものを失うかもしれないから。 だから―――全力で走った。 next→ あとがき |