■■■ 伝えたいキモチ
「ふぅん…そんなコトがありましたの。」
「夕食の時、二人共口きかないからおかしいとは感じてたのよね。」
爪先に赤紫色のネイルを乗せていたセリーヌが、ふっと指先に息を吹きかける。
その向かい側に座っていたチサトは、手に持っていた現像したばかりの写真を分けていた。
アレからプリシスは、どうして良いのかわからなくて、仲間の二人に相談を持ちかけたのだ。
怒られたみたいだけれど、何について怒られたのかよくわからない。
なんとなくぎこちなくて、アレからアシュトンと目が合ってしまうと自分から避けてしまって。
アシュトンと知り合ってから、初めてのこのケンカのようなものは、プリシスにとってはどうしたら良いのかわからない出来事だったのだ。
「で?何が聞きたいんですの?」
ちろりと、セリーヌが指先を見詰めていた瞳をプリシスに向ける。
ほんの少しどきりとして、プリシスは俯いた。
「嫌われちゃったの…か…なぁ?」
「…どうしてそう思うんですの?」
「だって…なんか、くだらないコト言って、怒らせちゃったみたいだし。」
だんだん…。だんだん泣きたくなってくる。俯いて、唇を噛み締めると視界が滲んだ。
「愛されてるって…ことじゃないの?」
チサトが写真を分ける手を止めずに言う。その言葉に、プリシスが涙を浮べた顔を上げた。
「だって、怒ってくれたんでしょ?ちゃんと、プリシスが間違ってるって、怒ってくれたんじゃない。」
「どうでもいい相手が間違ってたら、注意なんてしてくれないと思いますわよ。
好きな人が、間違ってたから、教えてくれたんじゃないかしら?」
「…そう…なの?」
胸につかえていた重たいものが、ふっと…軽くなった気がする。
プリシスの生気を失っていた顔に、ほんのりと赤みが戻り始める。
「今…冷静になって考えてみると、やっぱりあの言葉はまずかったと思うんだよね。比べられるようなコトじゃないじゃん…ヒトの…レナの命がかかってたわけだし…だから…」
「プリシス…確かにそれはそうなんですけれど…彼はそのセリフそのものを、怒ったのではなくて…」
「そうよ〜言葉よりももっと大切なものを伝えたかったんじゃないの?」
セリーヌとチサトの言葉に、プリシスが目をぱちくりとさせる。
「わかんないよ…言葉よりも大切な…もの?だって、言葉にしなきゃ伝わらないじゃん!言葉にしなきゃ、カタチになんないじゃん!わかんないよ!どういうコト?」
ぎゅっと、チサトの服の裾を握ってプリシスが言う。
チサトとセリーヌの顔を交互にみる瞳が、その答えを二人に求めていた。
「それは…プリシスが見つける答えじゃないかしら?」
プリシスのすがるような瞳に、チサトがにこりと笑う。
セリーヌを見ると、彼女もただ笑顔を見せるだけだった。
「アタシが…?」
ぱちくりと、瞬きをして…プリシスがじっと…自分の拳を見詰める。
「アシュトンはプリシスが大切だから、それに気が付いて欲しかったのよ?」
目を閉じると、アシュトンの顔が浮んだ。
とくん…と、小さく胸がなって、プリシスはゆっくりと息を吸い込んだ。
そして小さくガッツポーズをする。
「うん。わかった。がんばる!」
「がんばってね〜。」
「うん!」
いつものプリシスの笑顔に戻って、プリシスが駆け出そうとする。
「プリシス!」
「何?」
降りかえったプリシスの瞳に映る、セリーヌとチサトの笑顔。
「アシュトンって、すごくイイ男ね!」
掛けられた言葉に、ふっと息を呑んで。プリシスが満面の笑みを見せた。
「あったりまえじゃん!知らなかったの?」
大きく手を振って、プリシスが部屋から飛び出す。
その後ろ姿を見詰めながら、残された二人がくすくすと笑い出した。
「しかし、アシュトンには結構意外でしたわ。」
「みたいね。」
ふふっと笑うと、二人とも止めていた手を再び動かし始めた。
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