■■■ 誘惑の歌




たとえば、髪をほどいてみたり。
たとえば、いつもと違う服を着てみたリ。
いつだってあなたを誘惑しているの。


だから気が付いてよ。
私の誘いに。


そして今夜もあなたを待つわ。


「〜っなんて歌があったけどさ。大体アタシのキャラに合わないんだよね〜。」

誘うならそんなまどろっこしいことしなければ良いのだ。
大体そんなことしたって、あの人には通じないってわかっていたのに。
お風呂上がりに部屋に訪れてみたリ、薄い服を着て抱き付いてみたりしたけれど、いつだって彼の反応は一緒だったのだ。
困ったように笑って、『おやすみ』って額にキスをくれるだけ。

そんなのじゃ、タリナイの。

ハッキリ、キッパリ、誘うしかないのだ。
あのニブチン男には。

すでに仲間の皆は寝てしまったのかもしれない。
静まりかえった宿屋の廊下を、枕を抱きしめながら進んだ。
肌寒い空気にぶるっと身体を震わせて、乾かしたばかりの髪を靡かせながら、少女は目的の部屋の前へと辿り着いた。

こくり。と、唾を飲み込む音が耳に響いた。
心臓が早鐘の様に鳴り響いているけれど、それすら心地良く思ってしまう自分は、今の自分に酔っているのかもしれない。
少女は覚悟を決めたように腕をあげた。










ざわざわと風が木々を鳴らす音が部屋に響いて、青年は不安そうに眉を寄せた。
軽く溜息を付くと、読みかけの本をサイドテーブルへと置く。

ふと・・・・・・・。愛しい少女の事を思い出す。
くりくりとした大きな瞳は、彼女の気分次第で鮮やかな色になるのだ。
その瞳が好きで、彼女の豊富な表情に何度も心を安らげてもらった。

あいたいなぁ・・・・・・。

なんて思ってしまって、ぶんぶんと頭を振る。
いくら恋人同士とはいっても、こんな夜中に会ったりしたら、自分の理性がもちそうにもない。
ただでさえ彼女はお風呂上がりに紅潮した頬で現れたり、薄着で抱き付いてきたりと、ここのところとんでもない事をやってきて、その度に自分は理性と、欲望と、戦ってきたのだ。

・・・・・・・抱きたい?
うん。抱きたいと思うよ。
だって、大好きだ。

自分のモノにしたくて、彼女の女の一面が見たくて、自分の中の欲望が疼く。
それでも彼女は幼い身体で、それは大きな負担となることがわかっているから・・・・・・。
だから、手が出せない。
泣かせたくない。
そういう夢を見ては罪の意識を感じ、次の日に彼女の目が見られなくなってしまうのだ。


・・・・・・・限界だ。


きっとこのままじゃ、彼女をいつか泣かせてしまう。
大切なのに・・・・・・。

「はぁ〜。」

この悩みを抱えてから、何度目かもわからない溜息をついて青年は立ち上がった。
もう寝ようと、部屋を明るく照らしているランプに手をかける。すると・・・・・。

トントン。
音のした扉の方へと目をやりながら眉を寄せる。

「・・・・・アシュトン?」

返事に戸惑っていると、聞き慣れた声がした。
慌てて扉に近付いて開けると、愛しい少女が顔を覗かせる。
大きな茶色い瞳が、自分を見上げていた。

「・・・・・・プリシス・・・・・。」

今この瞬間の、この感情を、何といって表したら良いのだろう。
会いたいと思っていた。
でも、今一番会いたくない人だった。

胸の鼓動が、ウルサイ。
震える手が、モドカシイ。

プリシスはいつものようににっこりと笑うと、アシュトンに聞きもせず、部屋の中へとするりと入り込んだ。
アシュトンがプリシスの持ってきた枕を見て苦笑いしている。

「・・・・・どうしたの?」

アシュトンの困ったような顔に泣きそうになる。
それを必死に面にはださないようにと、プリシスはもってきた枕を抱きしめた。

ゆっくりと、おちついて、深呼吸をして。
いつものように笑ってみせると、プリシスは覚悟を決めて口を開いた。
喉がひゅっと微かに音を漏らし、それにしまった・・・・。
と思いつつも言葉を続ける。

「ねぇ・・・・?アシュトン。・・・・アタシとエッチ、したい?」
「・・・・・えっ!?」

プリシスの言葉に、アシュトンの身体が固まる。
驚いて腰を抜かしかけたのか、床に崩れるように座り込んだ。

「えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!?」

がたがた、がたんっ!
激しい音をたてながらアシュトンが後ずさり、そのまま後ろのベットに激突して止まる。
そのアシュトンに、真剣な眼差しのままプリシスはアシュトンの返事を待った。





どれくらいそうしていたのか。
プリシスが痺れをきらし、いっそこのまま自分の方から襲ってしまおうかと考え始めた頃、
真っ赤になって目線を宙にさまよわせていたアシュトンがやっとプリシスに視線を合わせた。

「う・・・・うん。」

消え入りそうな声で、アシュトンが返事をする。

そのアシュトンに嬉しそうにプリシスは微笑んで、そのままゆっくりと足を前へと出す。
視線は合わせたまま、ゆっくりとプリシスが近付いてくるのを見詰めていると、
視界の端にプリシスが落とした枕が映る。
まるですべてがスローモーションの様だと、アシュトンは思った。
自然と胸の動機はおさまっている。

やっとアシュトンの前に来たプリシスは、アシュトンの目の高さと同じ位置に目線がくるように膝立ちになると、震える腕をアシュトンの首に回しそのまま首元に顔を埋めた。

「アシュトンになら、アタシ、抱かれたい。」

プリシスの言葉に更に真っ赤になってアシュトンは焦り、震える手をゆっくりとプリシスの背中に回した。
「だ、抱かれって・・・・・・なんかっ・・・・・。」

言いかけた言葉を呑む。抱きしめた小さな身体が、震えている。

顔が・・・・・・・見えない。

見えないのではなく、見えないようにされているのだと気がついた。
その事からプリシスが照れているのだと解り、愛しさがこみあげてくる。
首元に震えるプリシスの吐息がかかり、アシュトンは小さな身体を強く抱きしめた。

『アシュトンになら』

そう言ってくれたのが嬉しかった。
抱きしめる腕の中の、温もりが愛しくて、切ない。
大切にするつもりで、成長するまで待つつもりで、それは本当に大切で愛しかったからだけれど。
彼女の方から言わせてしまった自分に情けなくなる。

「うん・・・・。プリシス。僕も、君を抱きたい。」

泣きたいくらいに愛しい、小さな身体。
その小さな肩を掴んで、そっと身体を離す。
濡れた瞳と目が合って、お互い照れたように笑った後、そっと、唇を重ねた。





暖かく柔らかな下唇を、何度か角度を変えながら自分の唇で挟んだ後、そっとその唇を舌でなぞる。
その感触に僅かに開いた唇に舌を滑り込ませると、アシュトンはプリシスの後頭部に手を回し、支えながら優しく押し倒した。

「ぅんっ・・・・・・。」

その間も唇が離れる事は無く、逃げかけた舌を絡め取り吸い付いた。
柔らかな布団にすっぽりと埋まるように倒れたプリシスを、アシュトンは潰さないように片腕で自分の身体を支えた。
そしてゆっくりとプリシスの寝間着のボタンに手を掛ける。

「んっ?!」

驚いたように目を見開いたプリシスに更に激しく口付けると、自分の手に当てられた小さな手を無視してそのままボタンを外していった。
現れた白い首許に口付けると、プリシスの身体がピクリと反応した。

自分の指の動き、唇の動きに、確実に反応してくれるプリシスの初々しさに、胸が擽ったくなるほどに嬉しい。

「あしゅと・・・・・。」
「何?こわい・・・・?」

震える声が耳許に聞こえて、アシュトンはついつい笑みを漏らした。
アシュトンの暖かい吐息が首にかかり、プリシスが擽ったそうに首をすくめる。
その反応がまた愛しくて、わざと激しく吸い付く。
そのアシュトンにプリシスは照れたように笑いながら、ぽかりとアシュトンの頭を叩いた。

「アシュトンの、ばか〜。」

ぽかぽかと頭を叩いてくるプリシスに嬉しそうに笑うと、アシュトンはその小さな胸の突起を口に含んだ。
もう一方の胸のふくらみを優しく揉みあげる。

「ひゃっ、んっ、あしゅ・・・・・と、擽ったいって。」

擽ったそうに笑いながら、なおも頭を叩いてくるプリシスの手を無視して、胸の突起を舌で転がし刺激を与え続ける。
すると叩いていたプリシスの手が何時の間にか止まり、それは自然とアシュトンの髪を掴む形へと変化してきた。
擽ったそうに笑う吐息はだんだんと甘い吐息へと変化しており、プリシスの身体が震えてきているのがアシュトンにもわかった。

「んっ、ふぅっ・・・・・はっ・・・・・。」

堪えているのだろうか。
プリシスが苦しそうに息を吐いているのがわかり、アシュトンはそっと寝間着の裾へと手を移した。

「ひゃっ!!」

プリシスの身体が大きく反応する。
自分の下着に当てられた暖かなアシュトンの指に、全神経が集中して、プリシスは思わずその手を掴んだ。

「あ、あしゅとん?」
「・・・・・プリシス。」

普段聞いた事も無いその甘い声に、その声で呼ばれる自分の名前に欲情するのが自分でもわかった。
先を促す様に主張してくるような自分自身の状態に苦笑する。
そしてその主張は、太腿に当たっているプリシスにもわかってしまったらしい。
真っ赤になって困っているプリシスの頬に優しく口付けると、アシュトンは微笑んだ。

「大好き。」
「・・・・・・う〜。」

困ったように、でも嬉しそうに、プリシスも微笑む。
お互いくすくすと笑みを漏らすと、お互いの服に手を掛けた。
笑い合いながら、そして照れながら。
お互いでお互いの服を剥ぎ取っていく。
初めて見るお互いの身体に二人で照れたように笑って。
触れる指が擽ったくて、重なる肌が心地良くて、汗ばむ肌の感触になぜか幸せを感じて。
初めてのその感触に、プリシスは照れたように、そして嬉しそうに微笑んだ。

「アタシ、初めてがアシュトンでよかった。」

その時のプリシスの顔が今までに見たこともないくらいに可愛い笑顔で。
その時のプリシスの声が今までに聞いたこともないくらいに幸せそうな声で。
アシュトンは胸を支配する、擽ったいような疼きに口許を緩めると・・・・・・・・
そっと、その小さな身体に覆い被さった。






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