■■■ Love Word
「素直になりたいな・・・・・。」
ポツリと漏らしたセリフに、
「あなたほど素直な女性はいないと思うわよ?」
と、目の前で食器を片付けていた蒼髪の女性に、微笑みながら返事をされてしまった。
「・・・・・・・。」
軽くため息を吐いて苦笑する。
違うの。
アタシが言いたいのは、そんなコトじゃなくて・・・・・・・。
「プリシス?どうしたの??」
ベッドの端に腰かけながら、ぷらぷらと振っていた足の動きを止めた。
ふいっと顔を上げて、声を掛けてきた男性を見上げると心配そうに揺れる瞳と目が合ってしまい、思わず苦笑いをしてしまった。
「アシュトン・・・・・。」
こうして何度一緒に夜を過ごしただろうか?
パーティーメンバーの関係上、なぜかオトコのアシュトンとだけど何回か一緒の部屋になることが多くて。
皆は私達が恋人同士って知っているから、問題は無いと思っているみたい。そう・・・・・・。
コイビトドウシ。
ではあるけれど。
アシュトンが「好き」って言ってくれたから、だからなんとなくだけど、あれから付き合っては、いるみたい。
付き合ってから、アシュトンが好きなんだって気が付いた、ちょっとマヌケなアタシ。
一回言うタイミングを逃した言葉は、簡単に口にはできないような言葉で。
だから一度も言っていない。
アタシらしく無いと思う。
でも・・・・・・。
アタシだって、一応・・・・・オンナノコだから。
なかなか、口に出来無いことだってある。
特にこの想いは本当だから。
簡単には口に出来なくて。
簡単な想いだと思われたくなくて。
軽くため息を付いた後、いつもの様に笑ってみせた。
「ん〜??何でも無いよ?もう、寝よっか?」
「そうだね。」
アシュトンも笑って布団にもぐり込んだ。
だからアタシも自分の布団にもぐり込む。
何日も同じ部屋で夜を過ごしているけれど。
彼が、アタシに触れたことは、一度も無い。
触れて欲しい。
キスして欲しい。
そしてその腕の中で寝たいの。
してくれない、淋しさ。とか。
してくれない、その優しさ。とか。
それを知ってしまったから、アタシは・・・・・切ない。
アタシがアシュトンを好きになるのを、きっと彼は待ってくれているんだと思う。
アタシが一言、それを口にすれば、アタシの願いは叶うんだと思う。
でも素直になれくて。
月明かりだけが部屋の中を明るく照らしている。
目を瞑ってもう寝てしまおうと思った瞬間に、床が軋む音がした。
アシュトン・・・・・?
自分に近付いてくるその気配に、胸が高鳴ってくる。
身体全体が心臓になっちゃったみたいに、すごくって・・・・・。
その音がアシュトンに聞こえてしまうんじゃないかって思った。
そんなコトを思っているうちにアシュトンがアタシの枕もとに立ったのが気配でわかった。
なんだろう・・・・・?
って思って、ずっとそのまま寝たふりを続ける。
その時風を頬に感じて、次に暖かな指先が微かに触れた。
その感触に少し頬が反応してしまったけれど、アシュトンは気が付かなかったみたい。
その後暫くたってから、前髪に触れられる。
さらさらと。その感触を楽しむかのように何回も掬われた。
その前髪が額の辺りに当たるのが擽ったくて、堪え切れなくなってしまい、目を開けようとした・・・・・・・その瞬間。
目の前にあったアシュトンの瞳と目が合った。
唇を掠った微かな感触に、びっくりして目を見開く。
「・・・・・・・・・・・ごっ、ごめんっっっっっ!!!!う、うわっ!!」
驚いてアタシから離れたアシュトンが、ベットから転げ落ちる。
それに驚いて今度はアタシがガバリと体を起こした。
「あ、アシュトン!??」
「いたたたた・・・・・・・・。」
頭を摩るアシュトンが「たはは・・・・・・。」と苦笑する。
「アシュト・・・・・。」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
気まずい空気が辺りを支配する。
真っ赤になって俯いているアシュトンから、目を反らすようにアタシも下を向いた。
言わなきゃ。
今言わなきゃ、もう言えない。
一度逃したチャンスがまたやってきたのに。
思いきって口を開いた。
「「あの」」
重なる声に、重なる言葉。
困った様に微笑んで、アシュトンが手を差し出す。
その手を取って、アタシも笑った。
「アシュトン。ちゃんと、キス、しよ?」
アタシの言葉にアシュトンの瞳が大きく見開かれたけれど、かまわずにアタシはそっとアシュトンの首に腕を回した。
そして重なる唇。
柔らかくて、暖かくて、切ない、キス。
唇が離れた後、恥ずかしそうにお互い笑った。
くすくすと笑みを零しながら、もう一度唇を寄せる。
「スキだよ?」
唇が塞がれる前にやっと、アタシはずっと口に出来なかった想いを口にした。
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