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「ボーマンさんっ!コレ、ください〜〜!」


どさりとカウンターに置かれた山積みの商品に一瞬たじろいで、ボーマンは営業スマイルをなんとかつくる。
毎週毎週、決められた曜日に自分のお店に商品を買いにきてくれるこのカップル。
リンガでは有名なちょっと変わったカップルだ。


「あっ、待って〜〜。アシュトンっ!コレも。」
「どれ?プリシス?」


てけてけとポニーテールを揺らしながらカウンターにやってきた少女の手から
調合用の材料を受けとって青年がそれをカウンターの上に乗せる。
崩れそうになった商品の山を抑えて、にっこりとボーマンに笑顔を向ける青年。
少女の方はもともとこのリンガの住人なので顔見知りだが、青年のほうはこの村の者ではなかった。
少女がこの青年と、旅するうちに二人の間に恋が芽生えたらしい。
二人からそれを聞いた。
自然と青年とも話すようになってきた今、ボーマンには二人に言っておかなくては・・・・と、思っていたことがあった。


ひとつひとつ、並べながら袋に詰めて・・・・・ボーマンは仲良く話している二人の顔をみた。
ごくりと、唾を飲み込む。
たかだかひとつのコトを言うだけなのに、こんなに緊張するなんてボーマンらしくないが・・・・・
言いたいコトがコトなだけに、手に汗が滲んでくる。


「そ、そういやさ、お前ら・・・・前から疑問だったんだが、俺お前等に売ったことないんだけど?
薬局って、リンガじゃうちだけじゃねぇか?」
「何をですか?」


背中に双竜頭をくっつけた青年が、不思議そうに首を傾げる。
その仕草は男のボーマンにも少し「かわいい」と思わせるには十分な仕草だ。
ひょこんと、ポニーテールを揺らして隣で笑っていた少女も、なんのコトかわからなそうな瞳でボーマンを見ていた。
二人の不思議そうな瞳に、ボーマンはなんて言って良いのかわからなくて言葉を探した。


「何って・・・・だから〜『ゴム』だよ。
プリシスはまだ、その、年齢的にもさ、やっぱりまずいんじゃねぇか?
結婚もまだなわけだし。こういうのはやっぱりきちんとした方がいいぞ?」


言っているボーマンの方が恥かしくなってきて、少し頬を赤らめる。
さすがに二人の顔をまともに見るのは恥かしかったので顔を逸らす。
そのボーマンのセリフに、アシュトンも頬をわずかに紅く染めた。


「そ、そんな、結婚、だなんてっ・・・・!
そ、そりゃ、そういうこと、考えないワケじゃないですけどっ・・・・・!
もうっ!やだなぁ〜ボーマンさんっ!!」


ばしんとボーマンの肩を叩き、アシュトンは俯いてしまった。
耳まで真っ赤に染まって、床をじっと睨みつけている。
プリシスも少しばかり頬を染めていた。
二人の反応に、ボーマンがほっと胸を撫で下ろし、カウンターの下に手を伸ばした時だった。


「そ、そんなコトよりさ、『ゴム』って?」
プリシスの質問に、ボーマンの動きが止まった。
おそるおそる顔を上げると、不思議そうに眉を寄せたプリシスの顔。
アシュトンとプリシスの顔を交互に見て、ボーマンはこほんと咳払いをした。


「『コンドーム』以外今の会話であるのかよ・・・・。
避妊具!お前等だって、その・・・・。
そりゃ生の方がキモチイイんだろうけど、やっぱりこういうのは・・・・・・。」


目の前で「?」といった目でボーマンを見詰める人物が二人。
その二人の瞳に、ボーマンは一歩、あとずさった。
信じられなくて自然と指先が震えてくる。


「・・・・・・・お前等、もしかして・・・・・一緒に寝たりとか、してねぇ・・・・のかよ?」


うそだろ・・・・・。と、ボーマンが驚いて二人を指さした。
するとボーマンのセリフに、プリシスとアシュトンの頬が一気に真っ赤に染まる。


「そ、そ、そ、それはっ!そのっ、寝てますけどっ・・・・・!!」
「ぼ、ボーマンってば、なに、いいだすんだよっ!」


その二人の反応にボーマンはほっと、胸をなでおろした。
真っ赤に染まって慌てる二人に、ボーマンは微笑して、カウンターの下にあった四角い箱を取りだし、そっと袋に詰めこんだ。
もちろんアレ。


「1箱いれとくからさ、ちゃんと使えよ?」


はい。と手渡して、お金を受け取ろうと手を伸ばし・・・・・・。


「何コレ?」
「寝る時使うの??」


二人の会話に宙に伸ばした手が震えた。


「・・・・・・・・お前等・・・・・。寝るって・・・・一緒の布団で寝てんだろ・・・・?」


ボーマンの頭の中に、ひとつのことが思い当たり・・・・・・それを必死で否定しようと、二人に真実を問い詰める。


「最近は寒いから、くっつくとあったかいんだよ〜。」


プリシスの返事に、ボーマンはゆっくりと深呼吸を繰り返した。
もやもやと胸の中に溜まり込んでいたモノを一気に吐き出すために、大きく息を吸い込む。
そしてそれを言葉と共に吐き出した。


「俺は『えっち』してるかって、聞いてんだぞっ!?
わかるか!?『えっち』!『セックス』!!『性交』!!!」


ぱたぱたぱぱた・・・・・・・っ!


ぱこんっ!!


「何恥かしいセリフ連呼してんのよっ!」


丸めた雑誌を握りしめて、頬を真っ赤に染めたニーネが突然部屋の奥からやってきた。
その雑誌で叩かれた後頭部を摩りながら、ボーマンは半分泣きたい気分でもう一度・・・・・
やっぱり意味のわからなそうな瞳をした二人を見る。
その瞳に益々泣きたくなってくる。


「ニーネぇ・・・・・。こいつら、子供の作り方、知らねぇんだぞ〜・・・・・。」
「えっ・・・・?」


ニーネの紅かった顔が急激に青く染まった。
ボーマンのセリフにプリシスが怒ったように頬を膨らませ、口を尖らせた。


「失礼ね〜〜〜!知ってるもん!赤ちゃんんのできかたくらい!バーニーが運んできてくれるんだよっ!」
「違うよ、プリシス。トライア様が、仲良い夫婦のところに授けてくださるんだよ。」
「どっちも違うわっ!!」


ぱこん!
ぱこん!


ニーネの手から雑誌を奪うとボーマンが、アシュトンとプリシスの頭をリズムよく叩く。
信じられない目の前の二人に、ボーマンはふうっと溜息をついて。


「アシュトン・・・・・お前、男として・・・・・・すげぇと思うよ・・・・・・。」
「え?そ、そうですか?」


嬉しそうに照れるアシュトン。


「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」


困ったようにボーマンとニーネは二人顔を見合わせて・・・・・・お互い同時に溜息をついた。






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