■■■ Night & Day
初めてあなたの前で化粧した日を、今でも覚えてる。
初めてあなたがネクタイした日を、今でも覚えてる。
お化粧も、ネクタイも・・・・・。
そんなもの身につけたりする前から知り合っていたから
初めて見るお互いのちょっとしたオトナへのステップは
なんだか気恥かしくて、なんだかとても見慣れてなくておかしくて・・・・。
お互い「似合わないっ!」って笑って・・・・。
でもその後に照れを必死で隠して、「うそうそ、似合ってる・・・・。」ってちゃんと伝えた。
いつだってそう。
オトナへのちょっとしたステップは、いつでもあなたと踏んできた。
オトナへのステップだけじゃない。
人生における、ささいな初めてとささいな節目は・・・・あなたと知り合ってからは全部
全部あなたと一緒に経験したの。
大学の卒業式だって、初めてお酒を飲んだ日だって
初めてのキスだって、全部あなたとだった。
そして・・・・結婚式も。
友達から始まった恋だから、いつ一線を越えていいのかわからなくて・・・・
いつも上手くはぐらかして、誤魔化して・・・・・越えられなかった一線。
それが今夜、結婚式の夜・・・・・越えられる。
いつだってこんな風にステップを越える日はどきどきしていたわ。
どうしようもなく・・・・・指が震えるの。
耳に響くシャワーの音。身体を流れ落ちる暖かな液体。
水玉が弾けて、シャワールームの明りに輝く。
これからのコトを考えると、どうしても恥かしくて胸がどきどきして・・・・。
ゆっくりと湯船に足を入れた。そしてそのまま肩までお湯に浸かる。
(・・・・ダメ・・・・緊張する・・・・。)
今まで越えてきた、すべての初めてよりもそれは緊張して。
緊張からくる震えに湯船の端を掴む手に力を込めた。
こんなに緊張してたって、実際はたいしたことがないんだってわかってる・・・・けれど・・・・。
でも、やっぱり・・・・・。
「緊張で・・・・死にそう・・・・。」
震える吐息と共に呟く。
あんまり長い間お風呂に入っていたら、あの人が心配するかもしれない。
そう思って立ちあがろうと思うけれど・・・・なかなか身体は言うことをきいてくれなくて。
自分を包み込む暖かな湯気で、緊張で・・・・頭がくらくらしてくる。
震える手。
くらくらする頭・・・・・。
朦朧としてくる・・・・・・意識―――――。
「んっ・・・・・。」
重い瞼を持ち上げると、見えるのは真っ白な天井。
「私・・・・。」
起き上がろうとして視界がぐらつく。
朦朧とする意識のまま起き上がろうとして・・・・・はっと気がついた。
自分の上に掛かっていた布団がずれて、現れたのは何も身につけていない身体。
「お、気がついたか?」
「っ!?」
顔を上げると大好きな人の顔があった。
ビール片手にニヤリと彼独特の笑顔をしながら、ぽんっと私の頭を叩く。
「ぼ・・・・ボーマン・・・・・私・・・・。」
「のぼせるほど風呂に入るなって・・・・。」
「ご、ごめんなさいっ!ここまで運んでくれたの?」
慌てて丸見えな肌を隠しながら起き上がる。
「見ちったのは仕方ないからなっ!?怒んなよ!?」
慌てて言い訳をするボーマンが可笑しくてついつい苦笑してしまう。
でも、今の自分の状況に気がついたら、急にまた恥かしくなってきて・・・・・
ぎゅっと布団を掴む手に力を込めた。
とすりとあなたがベッドの端に腰掛ける。
ビールを喉に流し込むと、私の顔を覗きこんできた。
そしてクスクスといつもみたいに笑った。
「緊張した・・・・か?」
「・・・・・ガラじゃなくて悪かったわねっ!」
意地の悪い笑みをみせるあなたの頭をコツンと叩いて、軽く頬を膨らませ拗ねた仕草をする。
それにあなたは困ったように苦笑すると、私の頭をその大きな掌で包み込みぐいっと自分の胸に引き寄せてきた。
ぽすりと、あなたの胸に顔があたって・・・・頬がみるみるうちに紅く染まっていくのが顔に感じる熱でわかる。
「ガラじゃねェのはお互いさまだろ。」
どきどきと自分の心臓の音が響く耳に、届いてきたあなたの言葉。
その意味が一瞬わからなくて・・・・・そして理解した。
どきどきと・・・・耳に届いていたのは自分の心臓の音だけじゃなくて・・・・あなたの心臓の音もだった。
「緊張してんのは・・・・・お前だけじゃねェんだぜ?」
ちらり・・・・と見上げると、真っ赤に染まった耳が見えた。
それに急激に胸が締め付けられる。
愛しくて。
急に込み上げてきた愛しさで・・・・・胸が苦しい。
私は自然と緩む口許をそのままに、そっと・・・・ゆっくりと。
ボーマンの背中に腕をまわした。
好きだなぁ〜って、思ったわ。
どこが?って、聞かれたら困るけれど。
こういう気持ちを、『好き』って、『愛しい』って言うのかな?
こういう気持ちになるのは、あなたの前でだけ。
だからたぶん、あなたは私にとって大切なヒトなのよね?
頬をあなたの胸に押しつけて。
着痩せするのか、細いと思っていたけれど、実はちゃんと逞しくて、カタイ胸板。
それにオトコを感じる。
あなたにオトコを感じたと同時に私がオンナだって感じる。
二人、違う生き物だって感じて、もっと、そばに・・・・近付きたいって思った。
「ボーマン・・・・・。」
「ニーネ・・・・・。」
真剣なあなたの瞳に捕らえられる。
いつだって、この真剣な瞳が好きだった。
これからもずっと、この瞳が好きでいたい。
この瞳を見ていたい。
ずっと、ずっと・・・・・傍にいて。
この、大好きな瞳で、私を見ていて欲しい――――――。
「・・・・・好きよ。」
自分でも驚くくらいにすんなりと出た言葉。
言った後に急に恥かしくなって俯く。
「ニーネ・・・・。」
熱っぽい声が耳に届く。
すっと、頤を掴まれ顔を上げさせられる。
あっ・・・・と思った時にはすでに唇に柔らかな感触。
そっと触れてすぐに離れていく。
それが名残惜しくて、つい唇を突き出してしまった。
それにあなたは愛しそうに目を細めて・・・・・・。
「・・・・愛してる。」
初めて聞いたあなたの言葉に驚く。
「ぼっ・・・・!!」
開きかけた唇を、言葉ごとあなたのそれで塞がれて。
私の背中を強くかき抱くあなたの力強い腕。
今までにないくらい、激しく熱い口付けに頭の芯までくらくらと麻痺してくる。
吐息すら吸い上げられるようにキツク、激しく吸い上げられて。
絡められる舌。
貪るような、求められているってコトがわかる、熱い口付け。
ぞくりと、背中が粟立つ。
「んっ・・・・。」
「ぅンっ・・・・・。」
急速に愛しさが込み上げてきた。
愛しくて、愛しくて・・・・・!!あなたの背中に回した腕に自然と力が入る。
加速していく胸の鼓動、加速していく想い、溢れ出る愛しさ。
溢れる愛しさを伝える術は、今の自分には口付けで答えるコトしかなくて。
がむしゃらに口付けて、愛をカタチにする。
息苦しいのは愛しいという感情からか、口付けからか・・・・。
痺れる脳に、自然と首筋に鳥肌がたって。湧き上がる感情。
好き!
その感情だけが私を支配して。
その心地良い感情に身を委ねて、私は睫毛を伏せた・・・・・・・。
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