■■■ ツマサキダチの恋



「はい。飲みモノ〜。」
かたんと、小さなテーブルに置かれたコップを手に取って、ボーマンはそれを素直に口にする。
口当たりの良い、爽やかな麦茶。
きょろきょろと辺りを見まわして、ボーマンは見なれた背中が無いのに気がついた。

「グラフトさんは?ラボか?」
「ん〜ん。アタシが頼んだプレゼント買いに、ラクールまで行ってる。」
「ふ〜ん・・・・・。」
(ヤバクね?)
頭に浮んだ思いに、慌てて頭を振る。
ヤバクね?なんて、ヤバイのはこの状況をヤバイと感じる自分自身だ。
さっきプリシスの胸の感触を知った時から、どうもおかしい自分の思考回路に、ボーマンは焦り始めていた。
ヤケに喉がカラカラに乾く。


ごくりと喉に冷たい麦茶を流しこんで、渇いた喉を潤すと・・・・その手を止めた。
「・・・・・なんでこの時期に冷たい麦茶なんだ?」
もう3月になるとはいえ、麦茶はどうも季節外れな気がする。
ボーマンの問いに、プリシスが何故か頬を染める。
プリシスは敷いてあった布団に座り込むと、ぶらぶらと脚を揺らした。
「だって、喉が乾くって・・・・・聞いたから。」
「・・・・・何?」


喉が―――――――――乾く。


プリシスが持っているコップについた水滴が、つつ〜っとプリシスの腕を滑る。
ミニスカートのせいでやけにキワドイ脚を、惜しげも無くボーマンの方へと投げ出して
プリシスがその水滴をぺろりと舐め取った。
「なんで・・・・布団が敷いてあるんだ?」
渇いた喉をにごくりと唾を流しこんで、ボーマンが震える口を開いた。
カラカラに乾いた喉。緊張しているというのか?今のこの状況に?
「だって、今からボーマン先生とえっちするからじゃん。」
「はぁっ!?」
プリシスの言葉に、ボーマンは驚いて目を見開く。
その反応に少し恥かしそうにプリシスが俯いた。


ぶらぶらと振っていた脚を止めて、持っていた麦茶を飲み干す。
コクリと動くその喉の動きに、ボーマンは魅入っていた。
それにはっと気が付いて、慌てて目を逸らす。
そのボーマンの仕草に、プリシスはぎゅっと手を握り締めた。
近くに置いておいた、さっきボーマンから貰った花束を手に取る。
「お前、なに考えてんだ!?」
その仕草にどきりとしたボーマンが、それを否定するように頭を振った。
喉がカラカラに乾いて、コップが空なのが悔しい。


プリシスは膝立ちになると、するすると花束のリボンを紐解いていく。
ゆっくりとボーマンに近付くと、花束を差し出す。
ぱらぱらと・・・・ひとつずつ。
花がボーマンの組んだ脚の上に落ちていった。
カスミ草に紛れた、色とりどりの――――花。


「受け取ってよ。」
真剣なプリシスの瞳に、ボーマンの声が震える。
「お前、意味わかってんのか?」


14本の花。

14歳の、アタシ。



「アタシを、受け取ってよ。」



それは14の女の顔ではなく。

女の顔で。声で。仕草で。


どくん!と、ボーマンの下半身が熱く脈打つ。


「俺を、犯罪者にする気か?」


無意識のうちに伸ばしかけた手を、理性で止める。
目の前にある小さな少女の身体。
汗ばむ手を、ぎゅっと握り締めて。
ボーマンはぎゅっと目を瞑った。
コレ以上見ていてはイケナイ。オトコの部分がそう教える。
「愛があればダイジョーブ。」
花の香りに紛れた、少女の甘い香り。
飛びそうになる意識を、必死に理性の糸で繋ぎ止めて―――――。



プリシスは妹みたいな存在で(でも他人だ)

プリシスはまだ14の少女で(でも女だ)



頭の片隅で、甘く囁く誘惑に必死で堪える。
「コドモに、興味は――――!?」
ボーマンの目が、驚きで見開かれる。
唇に感じる、柔らかく暖かなもの。
目の前に広がるプリシスの顔。
ボーマンの頬を両手で掴んで、プリシスがボーマンに口付けていた。


ちろりと出された舌で、ボーマンの唇をぎこちない動きでぺろぺろと舐めている。
さすがにボーマンの唇を割って舌を挿し入れるのには躊躇したのか
そのもどかしい舌の不慣れな動き、その初々しさに――――――ボーマンの意識が飛んだ。


「!?」


プリシスの後頭部を、ボーマンの大きな掌が覆う。
もう一方の腕はプリシスの細い腰に回されていた。
プリシスの長い髪を結い上げていたリボンを、ボーマンがさらりと解くと、栗色の髪がぱさりと舞った。
甘い花の香りに、プリシスのシャンプーの香りが混ざる。
それにボーマンの身体中の血が騒いだ。
驚いてプリシスが伸ばした手をボーマンが掴み、その柔らかく小さな指に自分の指を絡める。
強く握りしめて、細腰に回した腕に力を込めた。
プリシスの小さな身体が、くるりと回る。



回る―――――視界。



「んんっ・・・・・!?」


ぱらりと、14本の花が舞った――――――――。



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