■■■ secret love - act 1 きっかけ -


小さな頃から自分の周りには沢山のウソがあった。

父は厳しく、母も厳しく、そして優しかった。でも、周りは違った。
『ウソ』で固められた笑顔と言葉。最初はわからなかったのだ。
あまりにも自分がお子様だったから。ある日ふっと、周りは皆自分の機嫌をとりたがっているのだということを知った。
それから自分も、自分を『ウソ』で固めた。
吐き気がするくらいに偽りで固められた自分の居場所にも慣れてきた頃、僕はここに…。

そう、エクスペルに来た。

最初はとても驚いた。人工的でない澄んだ空気に、木々。のどかな村。
自分のいたところとは違う、『ウソ』で自分を固める必要の無いトコロ。
人を疑うことを知らない少女。人を思いやることを知っている人達。心から笑える自分がいた。

ここで、僕は一人の青年に会った。

驚くほどに素直で、驚くほどに感情豊かな表情で。
彼が幸せそうに笑っているとつられて自分も笑い出してしまう。そんな雰囲気を持つ青年。

初めて会ったタイプの人間だった。
お皿を並べるその仕草や、戦闘中の舞うような剣さばきとか、気が付くと目が彼の姿を追ってしまって。
照れたように笑ったり、淋しそうに微笑んだりしたのを見た時とか、起きたばかりの声を聞いた時とか。
自分でも不思議なくらいに胸が締めつけられて疼く。
これが『愛しい』ということなのだと気が付いたら、自分の気持ちを知るのは簡単だった。



僕はたぶん…きっと。この青年が好きなのだ。



恋をしたことが無いわけでは無いと思っていたが、今のこの気持ちが恋だと言うのなら、これは初恋なのかもしれない。
初めて胸に抱く感情。自分もこんなふうに思うことがあったのかと、彼と会ってから初めてづくしだ。

相手が異性だったら簡単だった。問題は彼と自分は同性だってこと。
自分達の世界でも、この世界でも、これはちょっと…普通じゃない。嫌われたくない。
今の友達という立場を失いたくない。
なによりも彼の笑顔を失いたくない。
だから、手がだせなかった。

「はぁ〜〜〜〜」

今日何度目かの、溜息。ここのところ溜息ばかり付いていた。
理由は一つ。朝、自分の好きな青年に言われた言葉だ。
ラクール城下町の広場にある柵にもたれかかると、大きく項垂れた。

『クロードなんか悩みあるの?暗いよ?』
『そう?ちょっと寝不足だからかな?』

声を掛けてきた本人のせいだとは言えるはずも無く、クロードにはそう返事をするしか無かったのだ。
そうしたらそうしたで更に寝不足の理由を聞かれ、『お風呂に誘う君のせいだ』とか、
『隣で寝ている君の寝息が気になる』だとか、そんなこと言えるわけがなくて。
クロードとしては本当に泣きたい気分だった。
ラクール武具大会という、宿屋の混んでいる時でなければ部屋を別々に頼むことも出来たのだが。

あとは自分の身長。青年よりも5cm低いのが最近の悩みだ。
港街ハーリーの武具店で、『シークレットブーツ』を発見した時は思わず手が伸びかけた。
情けないし、今更なので止めたけど。

「あ〜あ〜…。もう…こんなんでこの先…耐えられるのかなぁ〜〜〜」

もう一度大きく息を吐くと、暗くなった辺りを見まわし、重い足を引きずりながら宿屋へと足を向けた。

















「クロード♪お風呂行こ〜!」

準備万端。あとは行くだけ。といった格好で青年が話しかけてくる。
それもすごく嬉しそうに…だ。

「アシュ…あのさ…」

なんと言って断わろうか?
朝から考えていたセリフを言おうとしたところで、アシュトンがこれでもかってくらいに微笑んだ。

「今までずっと一人旅だったからさ!友達と背中の流しっこって、すごく楽しくって!」
「………。」

満面の笑みに、諦めて溜息をつく。
するとクロードのその溜息に、はっと、アシュトンは息を呑んだ。

「…何?…あ…もしかして、迷惑だった?」

さっきまで笑っていたのに、次の瞬間には悲しそうな顔になっている。ころころと変わる表情。

(アシュトン…お前ホント、ずるいよ…。そんな顔して迷惑?なんて聞かれたらさ…)

ふうっとクロードが再び深く溜息をつく。
するとまるで捨てられたみたいな顔をしていたアシュトンの顔が、一瞬で真っ赤に染まった。
あれ?とクロードが疑問に思ったところで、くるっとアシュトンは踵を返してしまう。

「あ、あ、ご、ごめん。僕、一人ではいってくるよ。友達なんて、勝手に…」
「アシュトン!」

慌ててその手首を掴むと、クロードは近くにあったタオルを鷲掴みにした。
そのクロードの行動に驚いたようにアシュトンが振り返る。
なんでそこでそう考えてしまうんだろう。アシュトンは。
自分が不幸だと、人に好かれていないと、思っているアシュトン。
友達じゃないなんて…それならなんだと言うのだ。

「僕も、友達と入るのは楽しいよ。だから…」



言葉を失った。



振り返ったアシュトンの顔が、まるで…そう。花が咲いたように綻んだから。
自分の身体の細胞すべてが、止まったのかと思ったくらいに。
頭が真っ白で、何も考えられなくて。
掴んだアシュトンの手首の温かさだとか、振り返った時に靡いた髪だとか。
そんなものに目が奪われた。


「!?」


気が付いたら掴んだ手首を引き寄せていた。
気が付いたらそのままアシュトンの耳に手を当てていた。
気が付いたら何かが床に落ちた音がした。

柔らかくて、暖かい感触。
暖かなその温もりが、重なる唇から身体全体に広がって、その痺れで満たされていく。
ふっと目を開けると…驚いて見開かれたアシュトンの瞳。
そこで我に返った。

「ごごごごごごご、ごめんっ!」
「くろー…」

慌てて唇を離すと部屋を飛び出した。
今ごろになって激しく鳴り響く鼓動だとか、熱く火照る顔だとか、そんなものよりもまず、唇に残る柔らかく暖かい感触に混乱してくる。
初めて触れた髪の毛や、暖かい肌の感触、そして柔らかな、唇。
まるで初めてキスしたみたいに混乱していて、どきどきして、身体中が熱くなった。

いや、初めてしたキスの時以上かもしれない。
何よりも、無意識だった。
無意識で、無意識で、無意識で!
だからこそマズイと思った。危険だと思った。
一度味わってしまったこの感触に、自分の中の欲望が押さえられるはずは無い。


肌寒い夜風に辺りながら、クロードはがむしゃらに走り続けた。











「今の…は…」

唇をそっと押さえる。あたった指の感触は明らかに先程の感触とは違っていた。
アシュトンは暫く考え込んだ後、床に散らばったタオルやら石鹸やらを拾い集めた。

「なんだと思う?」

そっと、呟いてみる。

「ぎゃふ」
「ぎゃふぎゃーふ」

背中にくっついた二頭の竜が何やら返事をくれたが、アシュトンの耳には届いていなかった。





あとがき

クロアシュです
まこりん本命PART2(笑)
しかもコレ、なんだかめちゃくちゃ長くなりそう・・・・・
某所でいただいた長編リクで浮かんだネタがコレだったんですけれど
でもボーイズラブなのでリクは違うのにしたんです

でも書きたかったので書いたという・・・・(汗)

切ないのが、書きたかったの

2002/08/10(改定) まこりん


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