■■■ secret love - act 3 答え -



「クロードと、ケンカでもしたの?」
「え………?」

蒼い髪を持つ少女に突然声をかけられ、アシュトンは虚ろな瞳で顔をあげた。
前線基地に到着する前夜、クロードとした会話が気になって、アシュトンは眠れない夜を過ごしていた。

いつも通りにされていた。クロードに。
あのラクールでの一件の後、落ち付かない様子だったクロードに、いつものように接していたのは自分だ。でもあの夜以降は逆になっていた。今は自分が落ち付かない。
落ち付かないアシュトンに、クロードはあの一件が起こる前の様に接してくれていた。

「そんなことないけれど…」
「そう?なら、いいんだけれど。疲れているの?ここんところ連戦だものね。アシュトン、少し休んできたら?」

確かに前線基地についてからというもの連戦続きだった。
魔物の数は減る様子もなく、さらに強力な、たくさんの魔物が襲来している。
精神的にもまいっている今の自分にとって、ここ数日はかなり厳しいものだった。

「ねぇ?聞いてる?アシュ…?」

心配そうにアシュトンの顔を除き込んできたレナの言葉に、嫌悪感を抱いてアシュトンが眉を寄せる。

「レナ?」

『アシュ』。そう自分を呼ぶのは彼、クロードだけだったというのに。
そのアシュトンの表情に、レナが慌てて謝る。

「あ、ごめん。クロードがそう呼ぶから、うつっちゃった」
「……うん。止めてって、言ってるんだけど…」

(あ…)

「嫌なの?ごめんね。気をつけるわ」
「うん。ごめん」

(うそを…ついた…)

すまなそうに謝るレナに笑顔を向けて、アシュトンは軽く手を上げるとそのまま救護室を後にした。















狭い廊下をひたすら早歩きで歩き続け、そのまま建物の外に出る。
肺いっぱいに空気を吸い込んで、勢いよく吐き出すと、そのまま柵に寄りかかった。
空を見上げると青空が広がっている。

(ウソをついた……)

なんだか嫌だった。レナに『アシュ』って呼ばれるのが。
レナに?いや、たぶん…クロード以外に、だ。
だから、遠まわしにあんなこと言って、レナが自分を『アシュ』って呼べ無いようにしたんだ。
無意識に。
嫌だって思うよりも先に、口から出ていた。

「………」

頭が、混乱する。
何で嫌だったんだろうか?そもそも、なんでクロードは自分のことを『アシュ』って、呼ぶんだろうか…?


「あ…」


そう考えて、一つの答が見えてきて。
アシュトンは耳まで真っ赤に染まるとへなへなと座り込んだ。


「すごい、自惚れだ……」


この考えは。
でも、あのキスの意味も、この呼び方の意味も。
きっとコレは…。
あの夜、確信を得る為に彼に問い詰めた答。
そしてもう一つ、答えがでかかっている。


自分が何で悩んでいたのか。


キスについて悩んでいたのではなく、自分の気持ちについて悩んでいたのだ。
それに気がついたら今度は、あのキスが嫌じゃなかったことだとか、
彼にしか呼ばれたくないと思ってしまったこととかが何でなのか、
そういうことに今更疑問を抱き、絡まった糸が解けたときのようにするすると答が浮かび出てくる。

「どうしよう…」

腕を掴まれて苦しかったのは、また期待したから?あのキスを。
時が止まるくらい、胸が切なくなるくらい、嬉しかったから?

「そう…僕は、たぶん…嬉しかったんだ」

だから、クロードに嫌われたと思ったら恐かったんだ。
故郷を失ったあの時以上に恐くて、失いたくなくて。クロードを。



どうして?



「ぎゃふ?」
「ぎゃ、ぎゃ…」

背中に憑いた二頭の竜が騒いでいる。
不思議に思って顔をあげようとしたとたん、ぽたり、と何かが零れ落ちた。
自分の着ている黒いローブにシミが付いている。
そのことに気が付いて、慌てて掌を頬に当てた。
濡れた、感触。

「え?…あれ?」

ぽたぽたと溢れ出す、涙。

「な、なんで…。」

慌てて頬を流れる液体を拭い去っても、あとからあとかから溢れ出てくる液体は止まらなかった。

「なんでぇ…??」

止まらない。止まらない、涙。わけがわからなかった。涙の理由も、止まらないわけも、この胸の切なさも。


ただ、苦しいだけだった。


「………好きなのかなぁ……。僕も。」


そう思った瞬間、優しく微笑むクロードの顔が頭に浮かんだ。





あとがき

君が恋だと気が付くまで
僕は待っていたいと思ったのさ〜

ってコトで、やっとこにぶちんアシュが
気が付いてくれました
やっとこくっつくのかと思いきや・・・・・?

2001/08/10(改定) まこりん


次へ



>>>戻る