■■■ secret love - act 4 接触 -
この想いを、いったいいつ、伝えようか…。
好きだと気がついた。
この想いが一方通行のものならば、黙っていようと思ったのかもしれない。
それくらい禁断の恋だと思った。
それでも今までの二人のやりとりから、この想いが一方通行のものではないと思った。
あの夜、切なそうに、苦しそうに眉を寄せていた彼が、微笑みかけてくれるかもしれない。
そう思ったら、すぐにでもこの想いを伝えるべきだと思った。
目の前の扉を叩こうとした手を、一瞬戸惑って止める。
深く息を吸い込んで、肺をからっぽにする様に息を吐いて。
こくりと唾を飲み込むと、息を吸い込んだ。
コンコン。コンコン。
軽く扉を叩いて、もう一度強く叩く。
一大決心をしてやってきたというのに、目当ての人物が不在なのか?と、アシュトンが諦めかけて、深い溜息をついた時だった。
「…悪いけど…」
中から聞こえてきた声に、アシュトンがぱっと顔を上げる。
「クロード!あの、話があるんだ」
「………。」
しんと、静まり返った扉の向こう。アシュトンは扉にへばりつくように寄り掛かった。
「クロード?あ、僕だよ。あしゅ…」
「知ってるよっ!」
ばたんと勢い良く扉が開く。
ぶっきらぼうに言われた言葉に、目の前のクロードの表情に、アシュトンが顔を強張らせた。
「君は…本当に…。どうしてそうやって僕を煽るの?
離れようと…忘れようと…してるのに、どうして僕に近付くんだよ!?」
「く、クロードっ…!」
締められそうになった扉の隙間に足を挟み入れて、アシュトンがクロードの肩を掴んだ。
「待って!僕の、僕の話を…っ」
振り返ったクロードの表情に、アシュトンの背中を一筋の汗が流れる。
「何?ヤらせてくれるの?」
クロードの瞳に、そしてその言葉にアシュトンが息を呑んだ。
ビクっと身体を震わせて、少し怯えた瞳でクロードを見詰める。
「アシュトンなんて…ダイキライだ」
心臓が悲鳴をあげた。
がんっ!と、頭を鈍器で殴られたような痛みが走る。
アシュトンは唇をカタカタ震わせると、クロードのタンクトップをおもいきり握り締めた。
「ぼ…僕だって、クロードなんて嫌いだよっ!」
アシュトンの言葉に、クロードが顔を歪める。
「…知ってるよ」
「好きなんて言ってくれたことないくせに、僕に勝手にキスなんてして、勝手に『アシュ』なんて呼んで!」
「…それは……」
「僕の中に、勝手にズカズカ入ってきて!」
「アシュトン…?」
「僕が…やっと…やっと気がついたのに、…話も聞いてくれなくてっ!嫌いなんて…言うっ…っく…!」
「あ、アシュト…ン?」
アシュトンの頬を流れる、熱い雫。
ぽろぽろと溢れ出るそれに、驚いてクロードがアシュトンの肩を掴んだ。慌てて部屋に引き摺り込むと、扉を閉める。
「僕は君が好きなのにっ…!」
「アシュトンっ!?」
ガタンっ!
「いっ…!」
大きな音がして、アシュトンの身体が扉に叩きつけられる。
その衝撃に、アシュトンが苦痛で顔を歪めた。
「ご、ごめん。あ、アシュトン?今…」
「アシュって、呼んでよ」
唇を尖らせて、俯くアシュトンの両肩に手を置いて。
クロードがその顔を覗き込む。真っ赤に頬を染めて、拗ねた瞳をする愛しい人。
「アシュ…今、僕のこと…?」
クロードの腕が震える。その震える腕を、アシュトンはそっと掴んだ。
「僕は…ばかだから…ずっと、気が付かなくて…。
君が『アシュ』って呼んでくれるのが嬉しい理由も、一緒の部屋だと嬉しい理由も…お風呂に一緒に入りたいって思ったことも。
全部、全部友達だからだって、思ってた。
君が…お、男だから…初めての経験に、気がつかなかったのかもしれない。
本当はずっと、友達に対する好き…だと思ってた感情は…」
「アシュトン…」
クロードの胸の…奥深く。
冷たく、凍っていたあの重いカタマリが、ほんの少し熱を持ち初めて。
とくん…とくんと…ゆっくりと胸の鼓動が響く。
「だって、キスされたのが、嬉しかったんだ!それは、友達に対する好きじゃないよね?」
その鼓動は、だんだんと大きく確かな温もりを持って。
身体の奥底から指先まで広がるように伝わる。
「アシュトン、今、初めての…経験って…」
「わ…悪かったね!そうだよ。この年だけど、人を好きになんて…今までなったこともなかった!」
ロードの驚いた顔に、アシュトンの顔が耳まで真っ赤に染まっていく。
そのアシュトンの反応に、クロードの胸が締め付けられた。
沸き上がる…愛しさ。
「アシュトンっ!」
「うわわっ…!」
ぎゅっと、クロードがアシュトンを抱き寄せる。
あまりにも急で、力強かったから。二人バランスを崩してそのまま床に倒れこんだ。
「クロードっ!離してっ…!」
「嫌だ!絶対に離さないっ…!」
くるりと身体を転がせて、そのままアシュトンに圧し掛かるようにクロードはアシュトンに抱きつく。
息も出来ないくらいに強く、きつく、アシュトンの身体を抱き締めて。
「苦しいってば!」
「嫌なの?」
クロードの言葉に、アシュトンがばたつかせていた手足を止める。
大きく深呼吸を繰り返すと、自分の顔を覗き込んでくるクロードから視線を外す。
そして照れた様に口を開いた。
「嫌じゃ…ないけど。心臓に…悪いよ…」
紅かった顔を、更に真っ赤に染めて。
指先まで真っ赤に染まるアシュトンに、クロードは目を見開いた。
なんて可愛い反応なのだろう。男のアシュトンに、可愛いなんて…おかしいけれど。
でも可愛くて、可愛くて…クロードは嬉しそうに、愛しそうに目を細めた。
「アシュトン…君が、好きだよ…」
驚いたように目を見開くアシュトンの手を取ると、そっと…指先に口付ける。
そのまま自分の下にいるアシュトンを潰さない様に…僅かに隙間を空けて。
クロードは身体を硬直させたままのアシュトンの頬に唇を寄せた。
「く、くろーど…?」
「何?」
「あ、あの・・・」
どうして良いのかわからないのか、困ったようなアシュトンの額にそっと口付けて。
ぴくっと動いて、閉じられた瞼に唇を滑らせる。目尻に、頬に、唇の端に…滑らせる様に唇を移動させて。
「アシュ…舌出して」
「え…う、うん…」
おずおずと差し出された紅い舌…クロードはぺろりとそれを舐めると、その舌ごと唇で塞いだ。
驚いて逃げた舌を、無理に追うことはせずに、そのままアシュトンの柔らかな唇を舌でなぞる。
「んっ…」
目を開けると、痛そうなくらいに眉をぎゅっと寄せて、瞳を閉じるアシュトンの顔。
それにくすりと笑って、そのままアシュトンの舌に、自分の舌を絡めた。
空いてる手で、そっとアシュトンの髪を撫でる。
「アシュトン…ね?瞳を開けてよ…怖くないから」
「ン…?」
唇に掛かる暖かな吐息と、僅かな隙間から入り込む辺りの空気。
そして聞こえてきた言葉。
アシュトンがうっすらと…瞳を開けると、クロードの優しそうな瞳があった。
その深い蒼碧の瞳に、吸い込まれそうになる。
朦朧とする意識の中で、アシュトンは必死にクロードの舌の動きに応えていた。
拙いながらも、与えられる刺激に、必死に応える。そのアシュトンがやっぱり愛しくて。
クロードはアシュトンが怖がらないように、優しくキスを繰り返す。
角度を変えては、何度も、何度もキスを繰り返した。
今思えば、いつも…自分を見ていたクロードの瞳は、これだったかもしれない。
そのクロードの瞳の温かさに、アシュトンの中から込み上げてくる感情が溢れそうになる。
どうしたらよいのかわからなくて。
困って床にへばり付かせていた手を…重力に逆らうように持ち上げる。
そっと、クロードの首に腕を回すと、金色の髪を握り締めた。
「くろーど…っ…!」
ひやりと服の隙間から入りこんできた、外部からの空気。
それと一緒にクロードの暖かな手が、アシュトンの肌蹴た襟元から入り込んでくる。
「ひゃっ…んっ!」
こんなに身体が熱く火照ってきている時に、他人に触れられたことは今まで一度もない。
自分の身体を弄る、クロードの優しい指先。
クロードが、大切に自分を扱ってくれているのが、その指先から伝わる。
金髪を握り締める手に力を込めて。
クロードの唇が、アシュトンの唇から喉を辿って…そして首…頚動脈の少し上。
そこを軽く吸い上げる。
「うっ…ん」
その刺激にアシュトンが身体を反応させ、その反応に楽しそうにクロードが微笑う。
服に差し入れた手で、アシュトンの服を少しずつ肌蹴させていけば、
普段白く透き通るようだった肌が、ほんのりと淡い桃色に染まっていく様がよく見える。
噛み付きたい程の欲を、押さえるのはとても辛いけれど。
やっと手に入った愛しい人が、怖がるのを防ぐためならそれくらいの努力は出来る。
今回が、最後じゃないから。これからのために。二人の、未来のために。
今のこの行為は、二人の未来への第一歩だ。
「クロードっ!」
アシュトンは不安を掻き消す様にがむしゃらにクロードの名前を呼んだ。
「クロード!クロードっ…!」
「アシュ…僕の唇に、指先に、集中して。他のことは考えなくていいから…」
「でっ…でもっ…ンっ…!」
身体の奥底から湧き上がってくる快感。指先まで伝わる刺激の波。
頭が朦朧として、呼吸が苦しくて。何も考えられなくなる。
クロードの吐息に、胸を滑る細い髪に。指先の動き、唇の動きに、身体が不思議なほどに反応して。
自分では動けないほどに力の抜けた身体。
「ァっ…ん…」
まるで自分の声じゃないみたいな、声を聞きながら…。
アシュトンはクロードの指先の動きに、身体を委ねた。
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