■■■ THE END OF THE WORLD act 3.彼女の恋人 「オペラ・・・・?」 「エルっ・・・・!」 通り抜けて行く風。 心に吹いた突風。 僕の中の時が止まった一瞬。 どくんどくんと、心臓が大きく鳴り響く。 今までこんな気分になったコトがあっただろうか? こんな・・・・こんな・・・・。 目の前で繰り広げられる光景は、決して起こらないと確信していた光景で。 エクスペルの復活。 それによってもたらされる、数々の復活の中で。 コレがありえないコトではないけれども、ありえないコトだと目を瞑っていたかったコト。 僕の好きなあの人の・・・・・・・大切なヒトとの再会。 「あ・・・・。」 動きが止まっていた僕に気が付いて、オペラさんがふりかえる。 そして困惑した表情で僕を見る。 それに胸が痛くて。 僕はさっと目を逸らした。 耳を塞ぎたかった。 次にくる言葉が容易に想像できてしまう。 彼女と自分の関係は、ただの友人なのだ。 それをオペラさんの口から言われるのはわかっていても辛い。 「紹介するわね。クロード。ここに来て、すごくお世話になったの。」 「そうか・・・・オペラが世話になったな。」 「こちらはエルネスト。よく話したでしょう?彼が私の追いかけてきたヒトなのよ。」 「・・・・・・。」 オペラさんの声が、震えていた。 それに頭の中で何かが音を立てた。 僕とオペラさんが友人? そんな簡単な、そんな生優しいモノじゃない。 彼女の声の震えに・・・・。 僕は気が付いてしまったのだ。 ジャマモノ。 そう・・・・僕は彼女にとってとても都合の悪い存在なのだ。 いっそのこと消してしまいたい、なかったことにしたい関係。 彼女がもう2度と求めたくない、モノ――――。 愕然とした。 こうなることを予想していなかった自分がいかに浅はかだったか。 差し出された手を握り締める気にはならなくて、僕はふいっと顔を背けた。 視界の端に映る、エルネストさんの瞳。 軽く端を持ち上げられた唇。 それにカッと顔が熱くなる。 コドモっぽい。 そう目で言われている気がして、むしょうに腹がたった。 余裕のあるようなその瞳が、僕の気持ちまで見透かしているようで腹が立つ。 片端を上げられた口許が、僕を嘲笑っているような気さえする。 「あ・・・・。」 何かを言いかけた僕を、あの瞳で見かえしてくる。 それに何も言うコトが出来なくて、僕は閉口した。 ぎゅっと拳を握り締める。 すっと・・・・・エルネストさんがタバコを取り出す。 その仕草がすごく大人のオトコを演出している気がして、胸が熱くなった。 そのエルネストさんに、オペラさんがライターを差し出す。 胸が痛かった・・・・。 「まだ・・・・それを吸っているのね。」 「まぁ・・・・な。」 耳に届いたオペラさんの言葉に。 視界に映ったエルネストさんのタバコに。 胸が激しく音を立てる。 僕の中の時が再び止まった気がした。 「ソレ・・・・オペラさんの吸っているのと同じ・・・ですね。」 口を開くと、渇いた喉からひゅっと音がする。 自分の胸の鼓動だけが、大きく鳴り響いている。 「ん?そうなのか?オペラ、あれだけタバコは止めろって・・・・。」 「いいじゃない。別に・・・・だって・・・・。」 エルネストさんのセリフに、弾けるように口を開いたオペラさんがちらりと僕を見る。 そして僕に聞かれてはいけないことを言おうとしていたのか バツが悪そうに下を向いて黙り込んでしまった。 こんな敗北感って、きっともう一生感じないと思った。 頭を鈍器で殴られたくらいに、激しい頭痛が襲う。 言われなくたって・・・・その態度でわかってしまった。 アナタは彼と同じ煙草を吸うコトで 僕とのキスを、彼とのキスにすりかえたかったのだ。 アナタは彼と同じ煙草を吸うコトで 少しでも僕に抱かれた罪から逃れたかったのだ。 少しでも彼への想いを、忘れないようにしていたのだ。 彼女の初めての相手が、たとえ自分だとしても。 彼女の心を捕らえているのは、この目の前のオトコなのだ。 カラダの繋がりなんて無くても、このオトコは彼女の心に住みついているのだ。 根強く。 広く。 しっかりと根をはって。 こんなに悔しいことって、きっともうない。 こんなに泣きたい気持ちになんて、もう2度となることはない。 なのに・・・・。 なのに。 オペラさんを想う気持ちは。 オペラさんを失いたくないという気持ちは。 揺らぐことなく、僕の心に深く根付いている。 もう2度とこんなに誰かを愛するコトなんてないと思うくらいに。 深く、重たいもので。 ねェ? どうしたら、アナタをこのオトコにとられないですむのですか? ねェ? どうしたら、僕をその瞳で見てくれるのですか? ねェ・・・・? あなたが好きなんです。 心から―――――――――。 あなたを失いたくないのです。 |