■■■ THE END OF THE WORLD act 4.タブー 「嫌っ・・・・!」 逃げる君の細い身体。 二人肌を重ねるようになってから、初めて見せる拒絶の表情。 「どうして?いつもアナタから誘ってきたじゃない?」 ぞくりと背中が粟立つ。 「アナタからいつも求めてきたじゃない?僕を。」 ぞくぞくと身体中を駆け巡る快感。 僕は今、タブーを犯している。 今まであなたから求めてくるまで、決してあなたを抱いたコトは無かった。 僕が求めるのではなく、あなたが求めるのでなければ。 僕らの行為はただの暴力だから。 真実の愛がないのなら、せめて偽りの愛を。 同意の上でなければ、僕はなんて哀しい存在。 抗う腕を力まかせに抑えつけて、ベランダの柵にそのままあなたを抑えつける。 コレも、二人の間では禁止されたコトだった。 決して人目のつくところで、行われたコトの無い行為。 壁一枚隔てた隣の部屋にはあの人がいる。 蒸し暑い夜に、眠れなくて窓を開けるかもしれない。 煙草を吸うために、ベランダに出るかもしれない。 それでなくても声が聞こえてしまうかもしれないこの場所で。 一番危険なこの場所で、僕はオペラさんを抱きしめた。 逃げる頤を掴み、自分に向けさせる。 いつもと違う、生気の宿ったその瞳。 黄金色の瞳が僕を睨みつける。 ゾクゾクと背中が粟立ち、身体中の血液が沸騰する。 偽りの愛もなければ、理由もない。 あなたを抱くこの腕には、あなたを抱いた数だけの 愛と言う名前の罪だけが刻まれていく。 「ンっ・・・・。」 貪るように、吐息すら吸い出すように激しく口付けて。 瞳を開けると、紅く輝く黄金色の瞳。 瞳を閉じないキスの意味を知っている。 あんなに瞳を開けていてと願った、それが叶う。 一番求めていなかった理由で。 それでも。 それでも嬉しいと思ってしまって。 それでも淋しいと思ってしまって。 ヨロコビとカナシミは紙一重。 引き裂くように上着を剥ぎ取れば、あなたは唇を噛み締めて。 溜息が出るほどに綺麗なあの顔で。 濡れた繊細な睫毛を伏せた。 あんなに熱かった身体が、すーっと冷えていく感覚。 抗うのを止めた腕が、僕の背中にまわされる。 急激にカラダが冷めて、ココロが軋んだ。 ぽたぽたと溢れ出す、涙―――――。 「いっ・・・・ン!」 吸いつくようなその滑らかな肌に、そのまま噛み付いて。 いつもいつも、この首筋に噛み付きたかった。 欲望に、忠実に。 そして僕はまたひとつタブーを犯す。 人の目につくトコには決して付けることのなかった、所有印。 それはオトナのオトコを演じたかったからとか。 彼女のためを思ったら当たり前だからとか。 そんな薄っぺらい僕の精一杯の強がり。 鮮やかに咲いた紅い花を、舌先で摩る。 鼻を擽るあなたの香りに、ほんの少し滲み始めた汗の香りが混ざって。 僕しか知らない、あなたのこのニオイ。 「ァッ・・・・!」 月の明りに輝く、白く悩ましい脚が覗くスリットから、指を忍び込ませて。 禁断の場所を隠す薄い布の紐を解くと 片方を解いただけなのにするりとその布は簡単に足元に落ちた。 虫の鳴き声だけが響いていたこの闇の中に、二人の吐息と水音も混ざり始める。 僕のタンクトップを掴むオペラさんの手が、カタカタと震え始めた。 顔を埋める彼女の首もとは、燃えるような熱を持ち始めていて 黄金色の髪が、汗によって彼女の首元と僕の首に貼り付いていた。 「クロードっ・・・・!」 ビクリと、肩が震えた。 涙が溢れて。溢れて。 止まらない。 名前を、呼んで。 そう何度願っても。 そう何度囁いても。 叶えられなかったコト。 「くろー・・・・!」 涙が止めど無く溢れて。 あなたの恋人と再会した時に感じた。 あんな敗北感は。屈辱感は。 二度と感じないだろうと思っていたのに。 もう、代わりはいらないと言うの? もう、あの人に抱かれる夢は見ないと言うの? もう、僕はあなたにとって、なんの意味も価値も無いと言うの? 「オペラさんっ・・・・!」 抱きしめるカラダの、なんと愛しいコト。 こんなにひどい仕打ちをされても、僕はあなたが欲しくて。 あなたが恋しくて。 溢れる蜜を指で掬って、自身に塗りつける。 スリットから忍ばせた腕で、彼女の片脚を上げさせる。 溢れる愛蜜が、月の光に輝いて。 その輝きに、目を細目る。 そしてそのままあなたを貫いた。 一瞬あなたが大きく背中を反らせて、僕の背中に爪を立てる。 その痛みよりも、胸の痛みの方が遥かに大きくて。 僕はあなたをむちゃくちゃに抱いた。 「あっ・・・・あっン・・・・!」 むちゃくちゃに・・・・抱いて。 抱いて。 抱きたくて。 なのに・・・・。 僕はなんて哀しい生き物。 今までで一番、あなたに愛を貫いた。 今までで一番、あなたを愛した。 「ふぅっ・・・・ン・・・・」 ちらりと隣のベランダと窓に目を移して、唇を噛み締めるあなた。 声を抑えるその姿が、僕の腰の動きをいっそう激しくさせる。 あなたが、必要なんです。 あなたがいなければ、僕はココにいる意味もなくなってしまうのです。 僕が生きる意味も、幸せの意味も、愛するということの意味も。 すべてただの文字に、ただの言葉になってしまうのです。 あなたにとって。 あの人があなたにその意味を教えてくれる人だとしても。 僕にとっては。 あなたが僕にその意味を教えてくれた人なのです。 「あなたが・・・・好きです。」 初めて口にした愛の言葉は、あなたの見開かれた瞳によって・・・・ あなたの胸に届くことなく、その意味を失った。 |