■■■ THE END OF THE WORLD    act 8.first contact





「………。」

部屋のランプの灯りで、ゆらりと煙草の煙が揺れた。
どこか部屋全体が白く、モヤモヤとしていて。
まるで自分の心のようだった。

自分を慕っていたオペラ。
そのオペラと親密な関係になったらしい青年。

自分はどうしたい?

あの時オペラを置いていったのは、彼女に対して応えられなかったから。
彼女の真剣な想いにはとっくに気が付いていた。
重みになっていたのも事実だ。
正直自分には女とか、恋愛とか、考えている暇がなかったから。

別に恋愛経験がないワケでは無い。
むしろ今になって『あなたの子供よ』と子供が目の前にでてきても
否定出来ないくらい、昔は色々とやってきた。

ただ女にしか無かった興味の矛先が、考古学に向けられただけだ。
古代遺跡や文明、そういったものに興味がわいた。
もともとヒトツのコトに夢中になると、周りが見えなくなる性格だったから、
そのまま他のコトには目も向けずに。
むしろ興味のあるもの意外は邪魔なだけで。

教師と言う立場も、それを利用して研究が出来るからだった。

彼女と初めて会ったのは、いつだったか。

黄金色の髪をゆったりと手で耳にかけて。
真っ赤なルージュでにっこりと笑う彼女。

「レヴィード教授。教授の授業を受けていますオペラ・ベクトラです。教授は恋愛に興味がありまして?」

あれは学祭の1,2週間前だったと思う。
突然教授室にやってきて、開口一番それだった。
呆気にとられたのも事実だ。
突然授業と関係無い話。

「考古学ほど興味はないがな。」

答えた俺に、満足そうに彼女は笑った。
その笑顔が、今でも忘れられない。

「よかった。でしたら、今度の学祭であるパーティー。お相手に選んでいただけないかしら?」

『オペラ・ベクトラ』

ああ…ベクトラ家のお嬢さんか。

と口の中で呟いて、座っていたイスをくるりとまわす。
背中を彼女に向けて、煙草を口に咥えて、火をつけて。
ゆらりと揺れた煙。
ふたたびくるりとイスをまわすと、彼女と向かいあった。

挑発するような、魅惑的な黄金色の瞳。
にっこりと笑う口許。

何か学生の間で賭けでもしているのだろうか?
あの考古学の教授を落としたら勝ちだの負けだのと。

「すまないが、子供を相手にする趣味はない。」

「子供?あら、どこをどうみてそう言われるの?」

ぴくりと彼女の眉が動く。
どうやら彼女の怒りの琴線に触れたらしい。
自分に対して怒りこれ以上近寄ってこないならそれはそれで助かる。

「教え子に手を出す趣味はない。」

「なら教授の授業を受けなければいい?」

「………しつこいな。君も。」

「教授に興味があるの。だから教授に私のことを見てもらいたい。」

ふっと笑う彼女の子悪魔的な瞳に、ふっと自分の唇の端が持ち上がったのがわかる。
目の前の女は、取り合えず自分を落としたいらしい。
そうですか。と落ちてやるつもりはないが。
と言うか、実際興味が無い。
それに正直今の自分にとって、女は邪魔な存在だ。

「俺は考古学にしか興味が無い。女にしろ、何にしろ、他のものに心を奪われる予定はないんでな。」

「あら、教授。私も今まで男に興味を持つ予定はなかったんですのよ。こういうのは予定が無くても、もってしまうものですわ。こと…恋に関しては。」

楽しそうに笑う彼女に、自分も笑った。
中々会話は楽しい女だと思った。
頭の回転がはやい女らしい。
こういう女なら、確かに一緒にいても楽しい…が。

「言うな。君も―――。」

言葉を発していた唇が固まる。
咥えていたタバコを、彼女はその白い指で抜きとって。
あいた俺の唇に、そっと唇を寄せた。

触れるか。

触れないか。

お互いの吐息がお互いの唇にかかる、ぎりぎりのラインで。

ふっと。

その真っ赤のルージュのひかれた唇をを開いた。

「考えておいてくださいね。」

視界の端で、彼女が抜き取った煙草を灰皿に押しつけるのが見えた。

しかしソレが視界にはいったのは一瞬で、次の瞬間は彼女の瞳に釘付けで。

黄金色の瞳が、少し朱を帯びていた。

黄金が燃えるような………神々しい色。





それは今まで知り合った女性の中で、一番。

魅惑的な瞳だった。








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